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【第06回】M&Aと知的財産の分解問題を管理するためのフレームワーク
-その2「知的財産の分解問題を管理するためのフレームワーク」

知的財産の分解問題を管理するためのフレームワーク

ケースから各ポートフォリオの異なる知的財産の重要度を識別し、重複する利害を識別するために、 売り手企業と売られる事業の複合知的財産ポートフォリオ(the combined IP portfolio)を評価される必要があるということは明らかです。

知的財産の重要度による識別
重要度コアな知的財産(IP of core importance)、重要度ノンコアな知的財産(IP of non-core importance)、および重要でない知的財産(IP of no importance)の間にシンプルな区分を作ることができます(図2参照)。 このアプローチはサーブ自動車の最初の売却だけでなく、VCCの最初と2回目の売却の両方でもうまく使用されました。

売り手企業と売られる事業にとっての重要度の各組み合わせは、その後の、知的財産契約規定(IP contract provisions)の様々なタイプと組み合わせにマッチさせることができます。この規定には、知的財産所有権の移転、知的財産ライセンス、 ジョイントベンチャー(合弁事業)を持つ知的財産が含まれます。様々な規定への適合性は、売り手企業と売られる事業にとっての重要度の対称性に部分的に依存します。図2は、それ以降の取引構造の設計のための一般的な知的財産分解フレームワークを提供します。

売り手企業と売られる事業にとっての重要度が等しいか対称形になる知的財産は、通常、売り手企業と売られる事業全体に均等に(対称的に)分配された知的財産のアクセス権とコントロール権(必ずしも所有権ではない)がセットアップされた契約が必要です。

知的財産の重要度の区分は時間の経過とともに変わります(例えば、売り手企業の企業固有のプラットフォーム技術を利用している売られる事業は、最終的に、他の技術に切り替える可能性が高いです)。従って、売却時に設計される知的財産の契約条項には、コンティンジェンシー条項、オプションの規定(例えば、ライセンスの移行またはライセンスの転換)、および再交渉トリガによって、このようなダイナミクスを考慮する必要があります。

知的財産の共同所有
知的財産権の直接の共同所有は、知的財産権のその他の使用に対する各当事者のコントロールはその後制限されるので、さらなる契約合意がなされない限り一般的にお勧めできません(その対称性にもかかわらず)。その代わりに、 知的財産の共有所有権は、VCCとかつての所有者ABボルボによって商標の重複使用を取り扱うために、ボルボ商標ホールディングが設立された例に示されるように、ジョイントベンチャーを持つ知的財産を共同所有することによって実現することができます。
それでも、補助的な契約上の合意が必要です(例えば、株主および/またはコンソーシアム契約とライセンス条項)。また、将来の技術的改善や将来の技術的代替(例えば発明し策など)のアクセスとコントロールを規制することも必要です。

ジョイントベンチャーを持つ知的財産
VCCの場合、ジョイントベンチャーを持つ知的財産の代替は、ライセンス契約(license agreement)です。それは契約上の解決策の重要な部分でした。対称的な関係でのライセンス供与、特に両方の当事者にとって重要度コアの知的財産については、ライセンスはライセンサーだけでなくライセンシーの利益も、関連性のある技術の将来の改善に関するグラント・バック条項(grant-back clauses)またはグラント・フォワード条項(grant-forward clauses)*6のような、さまざまな条項を規定することによって保護するように設計することがきます。

重要度が異なるか非対称になる場合
知的財産が両者にとっての重要度が異なる、あるいは非対称である場合、他方の当事者(それは、後者にとって任意に重要である場合)にライセンス供与されている間、知的財産は好ましく移転され、またはそれが最も重要である当事者のために維持されます(transferred to or kept with the actor)。VCCの場合、SPA車両プラットフォームとVEAエンジンプラットフォームの所有権は、Ford(これらのアーキテクチャは、Fordには重要であったため)へのライセンスバックなしにVCCに移転され、他のほとんどの技術がFordへのライセンスバックを含めVCCに移転されました。


*6 グラントバック条項、グラントフォワード条項(技術・製品の改良条項)
この条項は、製品改良条項とも呼ばれます。この条項によれば、移転先が製品を 改良でき、この場合グラントバックが、移転先に対して与えられます。 時に、もし移転側や最初の発明者が当該技術を改良する場合には、移転先にこの 利用を許可するようなグラントフォワードが明記されます。
(スーパーTLO技術移転推進サイト、技術移転ー契約より)


表2「時間tが経過したダイナミクスのある知的財産分解フレームワーク」(Ove Granstrandら1 FIGURE 2.「The Intellectual Property Disassembly Framework with Dynamics over Time t」を基に筆者にて分かりやすく追記作成)

ディスカッション:

(1)フレームワークの適用範囲

フレームワークの主要な概念区別(重要度コア、重要度ノンコア、および重要でない)は、任意の取引当事者によって所有またはコントロールしている任意の技術や知的資産に適用されます。それらはまた、あらゆる市場(それは地域、アプリケーション、またはセグメントの観点から定義される)でも適用されます。図2のマトリックスカテゴリは二者間取引の結果ですが、多数者間取引(多数者のオープンイノベーション、標準化コラボレーション、そしてパテントプール*6)でも、基本的なカテゴリのより精巧な(多次元の)マトリックスの組み合わせの結果となります。この解決法は、その取引の当事者間の異質性、取引の種類、および取引目的のタイプに応じて、またより洗練されたフレームワークが必要とされる産業、技術、知的財産権全体にも適用されます。

産業(や企業)の違いによる技術的多様性

自動車業界では、製造ツールはキーとなる物理的な資産です。そしてそれらは、しばしばプラットフォーム固有(platform-specific)です。分解する知的財産は通常、製造ツールの関連するセットと密接な補完性を持っています。他方、製薬やバイオテクノロジー産業では、研究ツールがより重要です。それらは広く共有可能な資産であり、コントロールされた共有のための規定が求められます。

自動車産業における拡張された階層的なサプライヤーのネットワークは、製薬やバイオテクノロジー産業より、より複雑な垂直上流の規定が求められ、自動車、化学、コンピュータ、および通信産業の寡占的特質は、より複雑な水平的なライセンス条項を求めます。このような規定と一般的に詳細なライセンスのスキームは、今回の両方のケースにおける売却の第2ラウンドで示されたように、競合する売り手企業と売られる事業を含む取引ではより重要になります。

産業(や企業)は、その技術的な多様性、あるいは、それらがオペレーティングしている技術の範囲(数)に関しても、知的財産権のばらつき(数)と知的財産権の保有者(ライセンサーおよびライセンシーを含む)のばらつきに関しても異なります。これらの三つの要素はすべて、知的財産分解問題の複雑さとその解決方法に加わります。それによって追加的な区別が求められるかもしれません。しかし、フレームワークの基本的な特徴の変更を必要としません。

異なる知的財産権のタイプ
特許、企業秘密、商標、著作権、および意匠権のような異なる主要な知的財産権のタイプに関しても、それらの中に意味のあるよく認識された違いがありますが、全体的に見てそれらは、このフレームワークに適合することができます。


*7 パテントプール
下記、「【参考】財産権の経済学」を参照。


(2)個人的な関係が重要な役割

最後に、企業間取引における知的財産分解の問題をマネジメントする際に、売り手企業、売られる事業、買い手企業の間の信頼と頻発する(recurrent)暗黙の契約を許す、個人的な関係(Personal relationships)が重要な役割を果たします。

サーブ自動車の場合には、個人的な関係の欠如が、ほぼ間違いなく、最終的に取引成立に至ることができなかった理由の重要な要因となりました。これとは対照的に、VCCの場合、数多くの初期の疑惑にもかかわらず、Ford、VCC、そしてGeelyとの間で個人的な関係や相互尊重が、ほぼ間違いなく重要でした。

知的財産分解問題と関連する交渉に対処するために、売り手企業、売られる事業、そして買い手企業の中で良好なコネクションを持つ経験豊富なマネジャーのアサインは、大幅に取引コストとリスクを減らすことができます。買い手企業側、バイヤーは、売り手企業と売られる事業の中で良好なコネクションを持つアドバイザー(買い手企業内で、売られる事業の良い未来のために交渉しながら、一方では、上級管理職の中で売り手企業に対する交渉する)を雇うことの可能性を考慮する必要があります。

Hans-Olov Olsson、VCCの元最高経営責任者(CEO)は、VCCの取得の過程で、おそらく関連する取引コストを軽減するために、シニアアドバイザーとしてGeelyに雇われました。ポスト売却の不一致やその他の分離に関する課題は、正式なビジネス関係グループで処理されました、そして、合意できなかった問題は、その後、CEO会議に提起されました。FordヨーロッパのCEO、Stephen Odell は、VCCの元CEOだったという事実は、その後また、潜在的な摩擦を制限しまた。

経営のためのレッスンとしては、このように、知的財産分解フレームワークを使用することによってだけでなく、信頼と相互尊重に基づいて交渉することによっても、取引コストとリスクを緩和することができるということです。

(以上、Ove Granstrandら1 「Managing the Intellectual Property Disassembly Problem」より)

【参考】財産権の経済学

Hardin(1968)による「コモンズの悲劇」がScience誌に掲載されてから30年を経て,Heller(1998) による「アンチコモンズの悲劇」が公刊された。2つの論文の直観的な違いは,前者が過剰消費(供給) 問題を描き出すのに対して,後者が過少消費(供給)問題を取り扱う点に見いだされるかのようである。 周知のように,コモンズの悲劇とは,共有する資産の管理が不行き届きとなり,資産の共有者達によって,適正水準以上に資産が浪費されてしまうというモデルである。

これに対して,Heller(1998)を受ける形で執筆されたHeller and Eisenberg(1998)がアンチコモンズの悲劇の一例として指摘したのは,貴重な知的資産が過少にしか使用されない、次のような事例である。

「ある薬品が複数の特許権を同時に使用 しなければ生産できない場合に,特許権の所有者達が自らの特許を中核的なものであると認識し,その価値を高く主張してしまうと特許への対価が増大してしまう。その結果,最悪のケースでは当該薬品は生産されず,各特許権も利用されなくなる。」

財産権の視点から見たコモンズとアンチコモンズ
Heller(1998)は,コモンズの悲劇とアンチコモンズの悲劇について以下のように定義している。
「コモンズの悲劇とは,多くの人が稀少な資源について特権的な使用権を有するときに発生する悲劇であり, アンチコモンズの悲劇とは,多くの人が稀少な資源について排除権を有するときに発生する悲劇である」。

しかし、使用権と排除権による区分は,問題設定を変化させるだけの用語の操作に過ぎず、構造的な違いを抽出することができない不十分なものである。そこで、財産権の視点からコモンズとアンチコモンズを考えると、次のように定義できる。
・コモンズの悲劇とは、財産権が存在しないために生じる非効率性
・アンチコモンズの悲劇とは、相互の代替不可能な財産権(全員一致が要請される財産権)を共有す るときに生じる非効率性

このように整理すると,2つの悲劇は,commonsとanti―commonsという用語から連想されるほど対称的なものではなく,悲劇の発生する段階が異なるということになる。

アンチコモンズの悲劇の意味
いかなる個人的な権利(排除権,使用権)であれ,「全員一致の要請」ないし「共同的財産権」が生じているならば,そこでは社会的な浪費が生じる。ただし,この悲劇は,財産権が規定できないために生じるコモンズ悲劇とは異なり,存在する財産権をガバナンスできないことによる悲劇なのである。重要なのは,権利の中身(排除権・使用権)ではなく,財産権の有無、およびその所有形態(共有するか否か)なのである。

情報通信産業に見るアンチコモンズの悲劇
典型的な例がマイクロソフトである。彼らは,WindowsによってOS市場 をほぼ独占し,これに対応するインターネットブラウザー(Internet Explorer)を販売し,そこでも支配的な市場を構築してしまったのである。

こうした独占状態を未然に防ぐためには,ネットワーク間またはネットワーク内での相互接続つまり互換性を確保し,競争環境を維持しなければならない。そのための1つの方策は,互いの技術を標準化したcommon interfacesを設け,相互接続を可能にすることである。

ただし,common interfacesを設けるためには,各プレイヤーが独自に開発した技術の特許を集約する(全員一致を得る)ことが必要となる。ところが,一部の特許所有者が自らの特許を拠出しないならば,厳密な意味での標準化は失敗してしまい,整合性のないネットワークが乱立したり,独占的なネットワークが登場し,サービス価格が不当に上昇するなど,望ましい競争環境に至ることができない(社会的余剰を最大化できない)。すなわち、アンチコモンズの悲劇である。
情報通信産業における技術の標準化は,多くの特許権を集約することで可能となることから,これがアンチコモンズの悲劇の温床となる。

パテントプール
技術標準の策定時に発生するアンチコモンズの悲劇を克服するために,パテントプールが用いられている。

日本の公正取引委員会が1999年7月に公表した『特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法 上の指針』によれば,パテントプールとは,「特許等の複数の権利者が,それぞれの保有する特許など又 は特許等のライセンスをする権限を一定の企業体や組織体に集中し,当該企業体や組織体を通じてプール の構成員等が必要なライセンスを受けるもの」と定義されている。

パテントプールのメリットは,①ライセンシングの一元化による取引費用の削減を可能にし、②大量生産による生産費用の削減,つまり規模の経済性を実現すること,③研究開発への投資誘引を高めること,④ 補完的技術の開発を促すこと,⑤投資における重複を事前に調整できること⑥,特許を巡る訴訟合戦を 回避できること,等が挙げられる。

一方,パテントプールのデメリットは,⑦市場分割や価格固定のための口実として悪用される可能性が あること,⑧一旦形成されたパテントプールの場合,特許権者による高いローヤルティーの要求といった 権利の過剰行使の恐れがあること,⑨あらたな標準技術を開発しようとする意欲を阻害する恐れがあること,等があげられる。

アンチコモンズの悲劇がもたらす難問
情報通信産業の事例は,実在するアンチコモンズの悲劇が,単に,それ自体を是正すれば良いというわけではなく,他の政策(ここでは,反トラスト政策や開発インセンティブの促進)との整合性が求められることを教示してもいる。

また、この悲劇を克服する有力な手段がパテントプール(やクロスライセンシング)なのだが,事後的にみるとカルテル性が強く競争制限的に機能する可能性がある。 他方で,後続の開発への貢献が期待されるなどのメリットも有しており,規制当局は,これら2つの効果を勘案し「競争促進効果を最大化しながら競争制限効果を最小化する」という難問にぶつかる。この事例は,私たちに,潜在的なアンチコモンズの悲劇が顕在化したときに,1つの指針を与えてくれる。

財産権が確立した世界に住む私たちにとって,互いの権利を一体的に行使しなければならないことは少なくない。悲劇であれ,喜劇であれ,アンチコモンズという概念は,集団的な人間行動の非効率性を考えるときの鋭い視座となっている。

(以上、西川ら4より)


参考文献

  1. Ove Granstrand, Marcus Holgersson "Managing the Intellectual Property Disassembly Problem", California Management Review, Vol. 55, No. 4, Summer 2012, pp. 184-210
  2. 石川浩「ライフサイエンス分野の企業における研究・開発段階での特許使用について」(2007)No43, 特許研究 PATENT STUDIES
  3. ポール・ミルグロム、ジョン・ロバーツ(著)、奥野正寛、伊藤秀史、今井晴雄、西村理、八木甫(訳)「組織の経済学」(1997)NTT出版
  4. 西川雅史、金正勲「コモンズとアンチコモンズ:財産権の経済学」(2004.9)No.30, 会計検査研究
  5. 渡辺秀治「技術関連契約において必要とされる基本知識、ノウハウ」(2004)Vol.57 No.2, パテント2004, pp. 25-36
  6. 隅蔵康一「知的財産の協働的マネジメントにおける留意点」(2009)24, pp.426-429,年次学術大会講演要旨集
  7. 後藤晃、長岡貞男(編)「知的財産制度とイノベーション」(2003)東京大学出版会
  8. Nari Lee、田村善之、立花市子(訳)「標準化技術に関する特許とアンチ・コモンズの悲劇」(2006)Vol.11, 知的財産法政策学研究
  9. 平成17年度 特許庁産業財産制度問題調査研究報告書「「アンチコモンズの悲劇」に関する諸問題の分析報告書」(2006)Vol.11, 財団法人 知的財産研究所

マネジメントダイバー 第06回(その2) 2013.10.31


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