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【第07回】自ら招いた産業の傷:システミック・リスクにどう対応するか。早期警告シグナルとペリカンギャンビット
-その1「より良いモデルの必要性」

非常に内容のある論文です。ご紹介したい内容が多いために、和訳だけでなく、要約にもかなりの時間を要してしまいました。この論文一つだけで、マネジメントのいろんな領域のテーマや様々な業界のディスカッションができる、例えば、ビジネススクールの講義用には最適の題材のように思います。

Thomas DonaldsonとPaul J.H. Schoemaker1は、最近の企業の自傷行為により引き起こされた損傷が産業レベルまで大損害になる問題に焦点を当て、様々な業界の事例を入念に調査分析しました。

彼らは、「最近の金融危機、沖合での原油流出、そして日本の原子力災害を含む、これらのリスクの悪影響は、業界の慣行を一変させ、時には経済さえも引き裂きます。これは、根本的な相互依存性から生じるシステミック・リスク*1によるもので、産業レベルでの大損害を引き起こす能力があります。多くの場合、あまりに厄介過ぎて、一企業だけでは管理できません。事故を起こした企業のインサイダーだけでなく、アウトサイダーを含めた業界レベルの協調行動が必要」と論じます。

ここで、 "ギャンビット"(Gambit)という言葉はチェスから来ていて、一人のプレイヤーが後で優れた戦略的な地位を得るためにピース、または地位を犠牲にする指し手のことを言いいます。

またこの問題を考える上で自然から学ぶとして、ここでは、生物学の相互的利他主義(reciprocal altruism)、ペリカンの協調行動を例にとります。ペリカンは両性共に競争的ハンターとしてよく動く個人主義の動物です。実際、 アメリカ先住民は、ペリカンを日本の鵜と同じように首に紐を結びつけて、魚を捕るための調教をしていたようです。雄のペリカンは、ほとんどの場合、獲物のためや雌との交配のために互いに競争し合うのですが、興味深いことに、雌のパートナーのために巣づくりの材料を収集するために、餌を探し回ることを放棄し、時には自分の配偶者のために見つけた巣づくりの材料を、ライバルのペアが使用することを許すそうです。

つまり、ペリカンは生きる中の重要なポイントで、彼ら自身の生き残りと種の将来を守るために、生来のライバル関係と個人主義を抑えます。これらの行動が、集団的かつ個体的の両方において、長期的に成功するために短期的に犠牲になる"ギャンビット"とみなすことができるとして、ビジネスにおける相互的利他主義の例を言及するために「ペリカンギャンビット」という用語を使用しています。

"ペリカンギャンビット"の定義
「競争の激しい経済環境下における、自社、業界、そして社会へのリスクを制限する目的のための協力に向けた戦略的な行動」とし、ペリカンギャンビットの注目すべき事例として、化学産業のレスポンシブル・ケア・イニシアティブを挙げています。


Thomas Donaldson is the Mark O. Winkelman Professor at the Wharton School of the University of Pennsylvania, where he specializes in the areas of corporate governance, values, and leadership. (日本では、「ビジネス・エシックスー企業の社会的責任と倫理法令遵守マネジメント・システム」文眞堂(2004)の著者として知られています)
Paul J. H. Schoemaker is Executive Chairman of Decision Strategies International and Research Director of the Mack Center for Technological Innovation at the Wharton School.


*1 システミック・リスク
システミック・リスクについて、関係者が合意している一個の定義は存在しない。FRB(米国連邦制度理事会)のバーナンキ議長は、金融システム上重要な金融機関を特定する鍵として「金融ネットワークへの影響度」(Interconnectedness)を挙げ、「システッミック・リスクとは、一つや二つの金融機関だけではなく金融システム全体、ひいては幅広い経済全体の安定性を脅かす事態である」 と定義している。一方、欧州中央銀行は「経済全体に影響を与える引き金になること」に焦点をあて、トリシェ総裁は「経済環境との関連において、システミック・リスクとは、金融システムを麻痺、あるいは破壊させて実態経済への大きな損害を惹き起こし得る脅威のことである。そうした事態は、大規模かつ金融ネットワークへの影響度の強い金融機関の破たん、長期にわたって蓄積した内在的不均衡、あるいは予期せぬ大事件から発生する」と述べている。
(杉田浩治2より)


システミック・リスクとその不満*2

システミック・リスクによる損傷事例

表1.「事例分析」(Thomas Donaldson1「Systemic Risk and Its Discontents」の事例分析部分を表として作成)

システミック・リスクは雪だるま式に増大する
様々な事例は、現代のリスク危機の深さを明らかにしています。金融証券化や深海掘削のような新しい革新的なアイデアは、そのコンセプト段階から標準的な業界慣行に素早く移り変わります。企業は取り残されないように、お互いを大急ぎで模倣し、成功を業界内の標準でベンチマーキングします。 このことが損傷を巨大に悪化させ、結果的に、顧客、サプライヤー、投資家、規制機関、従業員のようなステークホルダーは自分自身を保護することはできず、リスクは雪だるま式に増大します。


*2 Systemic risk and Its Discontents
用語の補足説明ではないですが、フロイトの代表作の一つに、「Civilization and Its Discontents」(文明とその不満)(日本では、本のタイトルは「文化への不満」というタイトルになっています。)があり、論文では引用はされていませんが、フロイトを意識した章タイトルにしているようです。

*3 クロスセル
組み合わせで購入してもらう方法、(参考「アップセル」ランクを上げたものを購入してもらう方法)
(Jay Abraham3「ハイパワー・マーケティング」より) 

*4 証券化
資産の証券化とは、流動化の中で、資産を有価証券化することにより資金調達を行うものを指す。証券化はアセット・ファイナンスの1手法であり、証券化の手法を用いれば、流動化したい資産を金融商品に変換し、流動化ができるのである。ここで、流動化とは、一般的には資産を現金化することを意味し、流動性の低い資産から流動性の高い資産への返還を意味する。資産を流動化するためには、売却による方法が最も一般的であるが、売却が難しい資産の場合、証券化が有効な手段となる。

この証券化という金融イノベーションは、経済の金融化において、大きな意味を持っている。市場で売買される有価証券などは流動化が容易であるが、ビジネスの中核的な資産である売掛債権や土地・設備などの固定資産、あるいは特許権や著作権といった無形資産、さらには事業そのものなどは流動化が容易でない場合が多い。例えば、売掛債権や貸付債権の場合、買い手にとって債務者の信用力が見えない中では、買い手が見つけにくい。また価格設定をした場合には不当に低い価格となる。また大規模な不動産の場合にも、買い手が見つけにくいという問題がある。証券化はこうしたビジネスの中核的資産を金融商品化することができるので、経済の金融化をもたらす仕組みとなったのである。

証券化は将来にキャッシュフローを生み出すものであれば、将来のキャッシュフローを元本と利息の原資として買い手にとって購入しやすい金融商品に変換することができる。証券化の対象は売掛債権、貸付債権、リース債権といった金融商品だけでなく、不動産、有形固定資産、音楽の著作権(1997年にデヴィッド・ボウイの300曲に関する将来15年にわたるロイヤリティ収入をベースとした5500万ドルの著作権の証券化の事例などがある)などの無形固定資産さらには事業そのものも対象(2006年にソフトバンクが旧ボーダーフォン日本法人の携帯事業を買収した際は、買収資金として携帯電話事業の事業証券化により資金調達を行った)となり、金融商品である有価証券に変換し、市場で流通し売買できるようにすることができる。つまり、証券化は経済の金融化をもたらす手法ということができる。(証券化の定義は、狭義の金融資産の流動化から広義の意味で将来のキャッシュフローを生み出す資産の証券化まであるが、ここでは広義の意味で用いる)
(田尾啓一4の「経済の金融化をもたらす証券化」より)


より良いモデルの必要性

リスクに先に気づくのは誰か
競争力のある業界のスマートなメンバーは、常に新しいルーチン、より良い技術、そして規制を回避する賢い方法を考案します。それは非常に複雑なルーチンや技術になると、規制機関はしばしば知るのは最後になります。技術イノベーションや競争戦略はめったに線形的で予見可能な形で起こりません。通常、業界”インサイド”の人々(経営陣、技術者、従業員、顧問、そして潜在的に戦略的パートナーが含まれる)が、 彼らの意図しない結果をはじめとする新興技術や新しいビジネスモデルの複雑さと根底にあるそのリスクを理解することができます。

企業のインサイダーの抱える問題

しかし、企業のインサイダーは、情報に関して優位性を持っているかもしれませんが、彼らはまた、自身の認知と感情的なバイアスを抑制するという、より大きな課題に直面しています。例えば、企業のインサイダーは、自分の会社の四半期決算を予測するとき、より良い情報を持っているにもかかわらず、業界アナリストを上回らない場合があります。議論すべき課題が近くにあっても、自分の企業への忠誠、および/または ポジティブなスピンを作る試みの連座が、客観的であるべきインサイダーの能力を落とさせます。課題に近い人たちは、両親が自分の子供の高さが大きくなる(すぐに訪れる祖父母によって観察される)のを見つけにくいように、断続的な観察をする人たちほど正確に段階的な変化に気づかないのかもしれません、

ペリカンギャンビットの提案
この傾向を食い止めるために、"ペリカンギャンビット"と呼ばれる戦術を提案します。これは、業界の"自主規制"のような伝統的な試みと混同してはいけません。自主規制は、最も立派な試みでさえ、限定的で強制力のない、 または曖昧な制裁にしばしばつながります。そして取り組みの多くは、メディアの批判を鈍らせ、業界への規制をかわすための単なるカバーです。対照的に、ペリカンギャンビットは、システミック・リスクについての個々の企業内の積極的な戦略であり、業界レベルでの協力的なリスク回避戦略への扉を開くものです。

参考文献

  1. Thomas Donaldson, Paul J.H. Schoemaker "Self-Inflicted Industry Wounds: Early Warning Signals and Pelican Gambits ", California Management Review, Vol. 55, No. 2, Winter 2013, pp. 24-45
  2. 杉田浩治「システミック・リスクの発生を如何にして防ぐか(SIFMA―米国証券業金融市場協会―の提案)」(2010)日本証券経済研究所
  3. Jay Abraham(著)金森重樹(監訳)「ハイパワー・マーケティング(Getting Everything You Can Out Of All You've Got)」(2005)インデックスコミュニケーションズ
  4. 田尾啓一(著)「リスク・ガバナンス(企業価値経営から持続的経営へ)」(2013)中央経済社
  5. 木島正明(著)「金融工学」(2002)日経文庫 日本経済新聞社
  6. Business Ethics Society at the University of Virginia:「Thomas Donaldson:Recap 」
    (http://besatuva.com/2013/02/20/tom-donaldson-recap/)
  7. 青木昌彦、奥野正寛(編)「経済システムの比較制度分析」(1996)東京大学出版会
  8. 城山英明「マルチステークホルダー合意形成と移行マネジメント」(2012)エネルギー持続性フォーラム 第7回公開シンポジウム「転換期をむかえたエネルギー利用とその地域的展開」講演資料(http://www2.ir3s.u-tokyo.ac.jp/esf/images/activity/symposium_20120206_shiroyama.pdf
  9. 松浦正浩、城山英明、鈴木達治郞「ステークホルダー分析手法を用いたエネルギー・環境技術の導入普及の環境要因の構造化」社会技術論文集, vol5, 12-23, Mar. 2008
  10. 神取道宏「ゲーム理論による経済学の静かな革命」(岩井克人、伊藤元重(編)「現代の経済理論」(1994) 東京大学出版会)
  11. 角皆宏、梅垣敦紀、青井久「第4回ゲームで遊ぶ(実験から始まる数学2)」上智大学社会人講座資料、(http://fe.math.kobe-u.ac.jp/KnoppixMath-doc/Sophia/jikken2/ )
    社会人講座資料ということもあって、ゲーム理論を平易に説明してくれています。またこの演習として使用する数学ソフト「KNOPPIX/Math」に収録されているゲーム理論ソフトの名前が、まさに「Gambit」のようです。「Gambit」単独も入手できそうなので、ご興味のある方は自己責任で楽しんでみてください。
  12. 濱田龍義「はじめてのKNOPPIX/Math」(2009)神戸大学
    (http://fe.math.kobe-u.ac.jp/KnoppixMath-doc/intro_math.pdf)

マネジメントダイバー 第07回(その1) 2013.12.08


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