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【第07回】自ら招いた産業の傷:システミック・リスクにどう対応するか。早期警告シグナルとペリカンギャンビット
-その2「ペリカンギャンビットを創造する」

自然から学ぶ

直観に反した行動を学ぶ
特定の戦略的な節目で、限られた状況下で、リーダーは、孤立してリスクを管理する衝動に耐えて、協力(つまり、ギャンビット)に向けて、直観に反した行動(counter-intuitive moves)を起こすことを学ばなければなりません。ギャンビットは、個々の企業がリスクを識別し、阻止することができる一つの手段なります。残念ながら、このようなギャンビットはほとんどのビジネスリーダーにとって直観に反します。彼らは自身の成功のための競争的な意欲と、現行の法律や規制制度に違反しないようにする慎重さの両方によって落胆するでしょう。それでもなお、よりうまくビジネスするには、ペリカンギャンビットを展開させることが必要になります。

注目すべきペリカンギャンビットの事例
一つの注目すべきペリカンギャンビットは、30年前カナダの化学業界のリーダーたちによって設けられました。業界は、1979年に、大規模な列車の脱線と鉄道車両の爆発を経験しました。カナダのミシソーガの周囲の領域で、スチレン、トルエン、プロパン、苛性ソーダ、塩素などの危険ガスを放出しました。その数年後、インドで悪名高いボパールユニオンカーバイド(Bhopal Union Carbide)災害が発生します。これは、12,000人以上が死亡し、20万人が負傷した世界の歴史の中で最悪の産業災害でした。カナダの化学産業のリーダーは、風評、安全性、および規制リスクに対処し、和らげるための措置を講じ、事実、1985年ボパール災害の9ヶ月前に、カナダ化学製品製造者協会(CCPA)は、後に、"レスポンシブル・ケア・イニシアティブ(Responsible Care Initiative)"として知られるものを策定しました。このイニシアチブは、今日、52カ国以上(世界の化学製品の出荷の約90%をカバー)で、化学のオペレーショナルリスクを管理するのに役立っています。

ペリカンギャンビットを創造する

システミック・リスクを伴う過去の事例分析は、リーダーが特に注意すべき、6つの明確な"業界の警告シグナル"を示唆しています。リーダーにとって、これらの警告シグナルのいずれか一つは彼らの業界が将来のトラブルに向かっていてることの一つのトリガーとして役立てることができました。
ペリカンギャンビットが必要とされる可能性があるケース
  • イノベーションが急速である(Innovation is Rapid.)
    業界参加者が製品やサービスのために急進的に新しいデザインまたは技術を受け入れるために競争するとき、企業が急いで参加しようとするようなシステムでは、感染は簡単に蔓延する能力があります。 (例、会計事務所が販売する新税シェルター、テストされていない住宅ローンのバンドル販売、ハイリスクな深海掘削技術など)
  • "沈黙"が広がっている(“Hush” Prevails.)
    たばこ業界のいわゆる"タバコ沈黙"は、何十年も癌と中毒に関するオープンな議論を妨げてきました。秘密圧力(Secrecy pressures)(企業の顧問弁護士により出されるか、広報の懸念によって刺激される)が、医薬品や医療技術を含む多くの業界での開かれた対話とデータ収集をじっと抑えつけます。
  • 専門家が少数である(Experts are Few.)
    業界が少数の非常に専門性の高い専門家に新しいビジネスツールの解釈、設計、または生産を依存するとき、リスクの高い状況が作られます。複雑な技術的な設計は、多くの場合、クリエイターと実装を管理する人たちの間の重要な情報の非対称性を作ります。(例、クレジット・デフォルト・スワップ(貸付債権の信用リスクを保証してもらうオプション取引【略】CDS)の仕組み、深海掘削技術)
  • 規制機関が弱い(Regulators are Weak.)
    業界が、専門知識、モチベーション、または公益を保護するための完全性が不足している、受動的で、または弱い規制者に依存しているとき、それは危険です。実際に、金融や医学研究の独立した専門家は、コンサルティング手数料および特権アクセスを通じて、誤った安心感を作成するために、取り込まれていた可能性があります。(例、メキシコ湾原油流出事故で、業界の米国内務省の鉱物資源管理サービスとの関係はあまりにもなれ合い。サブプライムバブルの場合には、格付機関は、ジャンク債にトリプルA格付けを割り当て、リスクの適切なスコア付けに失敗。)
  • あまりも多く隠されている(Too Much is Hidden.)
    時々、業界は公共の目の外で広範囲な慣行を開発します。露呈した場合には、説明するのは難しい規範が広く行き渡るようになります。そして、その慣行が結局、国民の信頼を侵害する可能性があることを示唆しています。慣行が存在する場合、その業界内部ではそれはよく知られており、受け入れられていても、業界外では奇妙で、または不正に見えます、警報の鐘が鳴るべきです。(例、住宅ローン危機が予測されたローン承認の慣行、医薬品業界における処方する医師へのリッチな便益を含むセールス慣行、投資銀行業界の株式アナリストの慣行。)
  • 批評家が無視されている(Critics are Ignored.)
    必ず、警告フラグを上げた人たちは認め、話を聞くことが必要です。例えば、どのように医薬品企業や医療機器企業は、医師との彼らの連絡係を批評する(critique their liaisons)人たちに対処しますか?この質問は危険なトレンドをハイライトします。批判されると正当な懸念を高めるものに耳を傾けることに対向して、業界のリーダーは結束を高める傾向があります。

事例におけるペリカンギャンビットの可能性の検討
リーダーは実質的にどのようにペリカンギャンビットを展開し、システミック・リスクに直面する協力活動を促進することができるのでしょうか?

単一の厳格な規則はありませんが、私たちはいくつかの情報に基づいた推測を行い、事例に戻ることによっていくつかの教訓を得ることができます。企業は与えられた業界の中で、混沌と災害から逃れるためにどのように行動すればよいのでしょうか?彼ら全員を倒したシステミック・リスクを彼らは予測し、緩和するために取ることができた対策はあるのでしょうか?これらの基本的な問いを、具体的に各業界別に設定し、警告シグナルと共に検討したのが表2です。


表2.「警告シグナルとペリカンギャンビットの可能性の検討」(Thomas Donaldson1「Creating Pelican Gambits」の事例検討と関連する部分を分かりやすく表として作成)注:なお、この検討は、後知恵バイアスに注意して慎重に行なわれている。


*5 エキゾチック商品
2000年前後には金融工学が全盛を極め、証券化の拡大と同時期に、オプション*5.1 等のデリバティブ*5.2 を組み込んだ金融商品においても、エキゾチックと呼ばれるさまざまな複雑な金融商品が開発され、流通し、経済の金融化が進展していた。こうした状況に共通することは、リスクを生み出したオリジネータ(原資産の保有者)あるいはアレンジャー(スキームをアレンジする証券化商品の販売者)と投資家の間に、商品構造の複雑性という要素が入ることにより、リスク情報に関する非対称性が生じていたということである。つまり、サブプライム・ローンの証券化商品についてオリジネータが認識しているリスクは、投資家は正確に把握することはできず、投資家はリスク情報の代わりに格付けや保証による信用補完を信じるしかなかった。
(田尾啓一4「リスク・ガバナンス」より)

*5.1 デリバティブ
原資産(すでに存在している証券や指数など)の値に応じて価値の変わる証券で、代表的なものに、先渡契約、先物契約、オプションなどがある。デリバティブを適正に利用することで原資産の価格変動リスクを回避できる。例えば、代表的なデリバティブである「コールオプション」は、権利行使日において、原資産の値があらかじめ取引された値(行使価格)よりも高ければそれらの差額を取引し、低ければ取引が発生しないというデリバティブである。具体的には、行使価格が100円の場合には、権利行使日における原資産の値が140円ならば差額40円が取引され、原資産の値が90円ならば取引は発生しない。

*5.2 オプション
オプションとは、将来の一定期間内に約束した金額で商品を売ったり買ったりする「権利」のことです。オプションを購入するためにはプレミアムと呼ばれるコストを支払う必要があるが、上記の「コールオプション」の例のように、「権利を購入」することで、買い手が不利な状況になったとき(権利を放棄することで)損失を回避できるというデリバティブがオプションです。オプションは権利なので、権利を行使して原資産を受け渡す価格Kを行使価格と呼ぶ。
(以上、木島正明5「金融工学」より)

*6 債務担保証券(collateralized debt obligation:CDO)
証券化したものをブレンドし再証券化、さらに再再証券化したものが債務担保証券(CDO)である、そしてこれを組成することで新たな金融商品を開発し販売することが行われ、その都度、アレンジャーはアレンジメントの手数料などの(資金を伴わない)役務収益を得ることがきた。しかし、再証券化、再証券化商品は、原資産との結びつきはさらに希薄なものとなり、格付け情報や第三者の債務保証のみが商品の信用度を担保するものとなった。
(田尾啓一4「リスク・ガバナンス」より)

*7 pay-for-peril
Thomas Donaldson がバージニア大向けに行った講演では次のように説明しています。
「people were absorbed in a phenomenon known as “pay-for-peril,” defined as the idea that it is not your money being invested, so the rational thing to do is take the risk to maximize profit. People understood the unethical nature of such an act, but literally everyone was doing it, so bad behavior became normalized in economic life. 」「人々は、投資されるのはあなたのお金でないという考え方と定義される、”危険給(pay-for-peril)”として知られている現象に夢中になったので、合理的なことは利益を最大にするために危険を冒すことになります。人々はそのような行為の非倫理性を理解していました、しかし、文字通り、誰もがそれをしていたので、非常に悪い行為は経済活動においては常態化していました。 」
(Business Ethics Society at the University of Virginia6 「Thomas Donaldson:Recap(講演要約)」より)
pay-for-performance(能力給)なので、ここでは「危険給」と訳した。


参考文献

  1. Thomas Donaldson, Paul J.H. Schoemaker "Self-Inflicted Industry Wounds: Early Warning Signals and Pelican Gambits ", California Management Review, Vol. 55, No. 2, Winter 2013, pp. 24-45
  2. 杉田浩治「システミック・リスクの発生を如何にして防ぐか(SIFMA―米国証券業金融市場協会―の提案)」(2010)日本証券経済研究所
  3. Jay Abraham(著)金森重樹(監訳)「ハイパワー・マーケティング(Getting Everything You Can Out Of All You've Got)」(2005)インデックスコミュニケーションズ
  4. 田尾啓一(著)「リスク・ガバナンス(企業価値経営から持続的経営へ)」(2013)中央経済社
  5. 木島正明(著)「金融工学」(2002)日経文庫 日本経済新聞社
  6. Business Ethics Society at the University of Virginia:「Thomas Donaldson:Recap 」
    (http://besatuva.com/2013/02/20/tom-donaldson-recap/)
  7. 青木昌彦、奥野正寛(編)「経済システムの比較制度分析」(1996)東京大学出版会
  8. 城山英明「マルチステークホルダー合意形成と移行マネジメント」(2012)エネルギー持続性フォーラム 第7回公開シンポジウム「転換期をむかえたエネルギー利用とその地域的展開」講演資料(http://www2.ir3s.u-tokyo.ac.jp/esf/images/activity/symposium_20120206_shiroyama.pdf
  9. 松浦正浩、城山英明、鈴木達治郞「ステークホルダー分析手法を用いたエネルギー・環境技術の導入普及の環境要因の構造化」社会技術論文集, vol5, 12-23, Mar. 2008
  10. 神取道宏「ゲーム理論による経済学の静かな革命」(岩井克人、伊藤元重(編)「現代の経済理論」(1994) 東京大学出版会)
  11. 角皆宏、梅垣敦紀、青井久「第4回ゲームで遊ぶ(実験から始まる数学2)」上智大学社会人講座資料、(http://fe.math.kobe-u.ac.jp/KnoppixMath-doc/Sophia/jikken2/ )
    社会人講座資料ということもあって、ゲーム理論を平易に説明してくれています。またこの演習として使用する数学ソフト「KNOPPIX/Math」に収録されているゲーム理論ソフトの名前が、まさに「Gambit」のようです。「Gambit」単独も入手できそうなので、ご興味のある方は自己責任で楽しんでみてください。
  12. 濱田龍義「はじめてのKNOPPIX/Math」(2009)神戸大学
    (http://fe.math.kobe-u.ac.jp/KnoppixMath-doc/intro_math.pdf)

マネジメントダイバー 第07回(その2) 2013.12.08


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