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Business Scientific Engineering


株式会社 ビジネスサイエンティア

ERMと遅れてしまった日本企業ERM & JAPANESE COMPANY

1.ERMと遅れてしまった日本企業

本来、COSOが考えた内部統制というものは、経営者直轄の全社的活動でした。欧米などでは、この全社的な内部統制活動が、ます先行して社会的に浸透し、それに世の中のリスクマネジメントに対する関心の高まりが加わり、ERM(Enterprise Risk Management:全社的リスクマネジメント)という概念が生まれ、広く取り組まれるようになっていきました。つまり、わが国でも、本来のCOSOの枠組みの考え方が浸透していれば、日本企業の製造現場などの改善活動として取り組まれているリスクマネジメントとも十分繋ることができるものでした。

しかしながら、わが国の内部統制の基本的枠組みは、国の法制化の過程の中で検討されたために、金融商品取引法における「財務報告に係る内部統制の前提となる概念的枠組み」という位置づけとなり、法規的には、「財務報告に係る」部分しか関連づけされず、会社法でも、枠組みの考え方を補完するものとはなっていないために、他の統制目的は宙に浮いた状態となってしまいました。

さらに、民間人も加わって企業会計審議会(当時)で検討された、この基本的枠組みの内容は、シンプルだったCOSOの枠組みを壊し大きく変更されたものだったために、内部統制の唯一の教科書である『内部統制の統合的枠組み』も広く読まれることはなく、「内部統制とは全社的活動である」という基本的考え方自体も、現在でもまだあまり知られていません。このように、多くの日本企業では、内部統制は財務報告に係る部分的な活動というかたちでしか理解されていないために、ERMについてもその必要性についての理解が浅い状態のままとなってしまいました。



2.求められるわが国のCOSO的組織

俯瞰して考えてみると、『内部統制の統合的枠組み』という米国の報告書を、わが国の法制化という社会システムにインプットした結果、法制度とは別に副産物として、インプットしたものとは違う枠組みをアウトプットしたために、結果として、わが国では、内部統制活動は、本来の重要な考え方が抜け落ち、歪んだかたちとなって浸透することになってしまいました。このことは内部統制のような複数省庁間に跨がり、企業活動全体を考えなければならないテーマは、国は不得意であることを示しているものです。

そこで、私たちは、J-COSO(わが国のCOSO的組織の仮称)を提案します。 わが国全体が共通して使える基本的枠組みとなるよう、あらためて再検討と合意形成し、社会的に平仄が合うようにする必要があると考えます。つまり、米国のように、枠組みは、まず市民レベルで合意しておき、それを規制当局である国が利用するというかたちにする方が、より信頼性が高く効率的だと考えるのです。 J-COSOの考えられる役割として、次のようなものがあります。

・COSOの『内部統制の統合的枠組み』の啓蒙
・わが国全体の内部統制の基本的枠組みの再検討と合意形成
・規制当局、関係諸団体間の調整
・海外関係機関とのコミュニケーション


3.COSOの『内部統制の統合的枠組み』から学べるもの

COSOの枠組みモデルは現在も進化し続けていますが、『内部統制の統合的枠組み』はすばらしい研究成果です。経営指南書と位置づけられるものです。この機会に、ぜひ『内部統制の統合的枠組み』を一読頂きたいと思います。そして、COSOの「産」・「学」・「士」の壁を乗り越えて、理論的にも実務的にも徹底的に議論されてできあがった研究成果そのものと、研究成果づくりの巧さも同時に感じとって頂きたいと思います。
「問題提起の芽生え方、政府に頼らない市民レベルの自発的な研究体制、モデル(あるいはシステム)を設計構築するセンス、合意形成の仕方の巧さ」など、内部統制の分野に限らず、私たち日本人にとっては学び取らなければならないものが多く含まれており、これが私たちにとって最も深刻な問題にも思えるものです。


4.トレッドウエイ委員会とCOSO

COSO(the Committee of Sponsoring Organizations of the Treadway Commission)とは、「トレッドウェイ委員会支援組織委員会」のことを言います。トレッドウェイ委員会とは、1985年に、アメリカ公認会計士協会、アメリカ会計学会、財務担当経営者協会、内部監査人協会及び全米会計人協会(その後、管理会計し協会)の5つの機関がスポンサーとなって設立した民間の組織「不正な財務報告全米委員会」のことで、トレッドウェイとはこの委員会の通称で、初代委員長の名前からきています。
このトレッドウェイ委員会が、「不正な財務報告」(1987)の中で、内部統制の重要性を指摘し、経営者、公認会計士、監督機関、会計・経営教育に従事する大学教員に対して、内部統制を評価する際の基準の設定を勧告しました。彼らが、特に強調したのが、統制環境、企業の行為綱領、有能で業務に専念する監査委員会、および積極的で客観的な内部監査部門の重要性であり、COSOに対して、内部統制に関するさまざまな概念と定義を統一し、それを通じてある共通の準拠枠を明らかにするための作業に共同して着手することを求めました。この報告を受けて、同委員会を支援している上記の5つの団体をメンバーとする支援組織委員会(COSO)が活動を開始し、5年の歳月を費やして、「産」・「学」・「士」共同の研究により、内部統制に関する包括的な報告書(1992)(『内部統制の統合的枠組み』)を完成させました。


5.参考文献リスト

企業会計審議会 内部統制部会(2005)「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準のあり方について(意見書)」
企業会計審議会(2007)「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の設定について(意見書)」
金融庁総務企画局(2007)「内部統制報告制度に関するQ&A」
金融庁総務企画局(2008)「内部統制報告制度に関する11の誤解」
THE COMBINED CODE ON CORPORATE GOVERNANCE July 2003 経済産業省企業行動課 編(2007) 「コーポレート・ガバナンスと内部統制―信頼される 経営のために」
企業行動の開示・評価に関する研究会(2005)「コーポレート・ガバナンス及びリスク管理・内部統制に関する開示・評価の枠組について-構築及び開示のための指針-」(案)
経済産業省 経済産業省経済産業政策局産業資金課 編(2005)「先進企業から学ぶ事業リスクマネジメント」
鳥羽至英、八田進二、高田敏文共訳(1996)トレッドウェイ委員会組織委員会(1992)「内部統制の統合的枠組み 理論篇」白桃書房 鳥羽至英、八田進二、高田敏文共訳(1996)トレッドウェイ委員会組織委員会(1992)「内部統制の統合的枠組み ツール篇」白桃書房
日本内部監査協会、八田進二監訳 橋本尚、町田祥弘、久持英司訳(2006)「簡易版COSO内部統制ガイダンス」同文館出版
八田進二/中央青山監査法人訳(2006)「全社的リスクマネジメント」(フレームワーク篇)東洋経済新聞社
八田進二/みすず監査法人訳(2006)「全社的リスクマネジメント」(適用技法篇)東洋経済新聞社
あらた監査法人 佐々木秀次編著(2008)「内部統制報告バイブル」ダイヤモンド社
伊藤勝教著(2001)「インターナル・コントロール」商事法務研究会
牧野二郎著(2006)「新会社法の核心 日本型内部統制問題」岩波書店
川村真一著(2006)「現代の実践的内部監査」日本内部監査協会
David McNamee著 眞田光昭訳(1998)「ビジネス・リスク評価の実務」日本内部監査協会
Larry Hubbard著 眞田光昭訳(2000)「統制自己評価 実践的ガイド」日本内部監査協会
ティリンガストータワーズ・ペリン編 眞田光昭訳(2001)「全社的リスクマネジメント」日本内部監査協会
ポール・J・ソベル著(2007)「監査人のためのリスクマネジメントガイドーERMと内部監査の統合」
樋渡淳二/足田浩著(2005) 「リスクマネジメントの術理」金融財政事情研究会
ジェームズ・ラム著(2008)「統合リスク管理入門 ERMの基礎から実践まで」ダイヤモンド社
岡本浩一・今野裕之編著(2003)「リスク・マネジメントの心理学」新曜社
上田和男著(2007)「企業価値創造型リスクマネジメント(第4版)」白桃書房
田尾啓一著(2007)「グループ経営の財務リスクマネジメント」中央経済社
太陽ASG監査法人編「プロフェッショナル・リスクマネジメント」中央経済社


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