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株式会社ビジネスサイエンティアは、コスト管理強化型 WBS構築・プロジェクトマネジメントシステム構築・業務システム構築を専門とするコンサルティング&ソリューション会社です。

Business Scientific Engineering


株式会社 ビジネスサイエンティア

マネジメント ダイバーMANAGEMENT DIVER



【第02回】B2Bブランドアーキテクチャーを設計する際に知っておくべきこと

ブランド論は、主に消費者市場向けに事業を行っているB2C企業に寄与しながら発展し、これまでに多くの研究がなされてきています。しかしながら、B2B市場についてはまだまだ研究が少ないのが現状です。

Steve Muylle、Niraj Dawar、そしてDeva Rangarajan1は多くの事例研究から、B2B企業のブランドアーキテクチャーモデルを提示し、ブランドアーキテクチャーを設計する際の多くの示唆を提供してくれています。

彼らは、B2Bコンテクストによってドライブされる場合、消費者市場向けに開発されたブランドアーキテクチャーのモデル(特定の消費者とセグメント利益へのブランドののポートフォリオを整理してターゲットするように設計)とは対照的に、

顧客と売り手のリレーションシップ構築の段階に注目して、各段階毎に異なる顧客リスクに対して、どのように各々のレベルのブランドアーキテクチャーを対応させるかが重要とします。

ここで、ブランドアーキテクチャーとは、「ブランドやブランド間の相互リレーションシップのコレクション」として、アンブレラブランド(企業ブランド)、ファミリーブランド、ラインブランド、モディファイアブランド(アイテムやモデル)で構成されます。


Steve Muylle is a Professor and a Partner at Vlerick Business School and a Professor of B2B Marketing at Ghent University, Belgium.
Niraj Dawar is the Barford Professor of Marketing at the Ivey Business School, Canada.
Deva Rangarajan is an Associate Professor of Marketing at Vlerick Business School.

顧客のリスクはブランドアーキテクチャーに何を問いかけるのか?

B2Bコンテクストの特徴は、買い手と売り手のリレーションシップの進化の各段階での顧客の知覚リスクを軽減する、営業部隊とブランドアーキテクチャーの補完的役割にあります。

つまり、「ブランドアーキテクチャーは顧客のリスクを軽減し、営業プロセスをサポートするものである。」(B2Bブランドアーキテクチャー設計の指針とすべき公理)として、次のようなリレーションシップ進化の各段階で、顧客リスクがブランドアーキテクチャーに問いかける、ブランドアーキテクチャーモデルを提示しています。

  • コンタクト(Contact)段階:顧客は売り手リスクに直面している
    アンブレラブランド:あなたは誰ですか?
    ラインブランド:あなたは何を提供してくれますか?
  • 取引(Transaction)段階:顧客は提供物リスクに直面している
    アンブレラブランド:あなたは何がユニークなのですか?
    ラインブランド:あなたの提供物はどこがユニークなのですか?
    モディファイアブランド:あなたの提供物は私たちのスペックや状況に適合しますか?
  • 拡張(Expansion)段階:顧客は規模のリスクに直面している
    アンブレラブランド:あなたは同じことをもっとできますか?
    ラインブランド:あなたは同じことをもっとできますか?
  • 建設的(Consultative)段階:顧客はスキルリスクに直面している
    アンブレラブランド:あなたは他の課題に対処できますか?
    ラインブランド:あなたは他に何を提供する必要がありますか?
    モディファイアブランド:あなたの提供物は私たちのスペックや状況に適合しますか?
  • 企業(Enterprise)段階:顧客はリソース(資源)リスクに直面している
    アンブレラブランド:あなたは戦略的なパートナーになることができますか?
    ラインブランド:あなたはよりよい提供物を私たちと開発することができますか?

(Steve Muylleら1EXHIBIT1.をリスト形式化)

B2B ブランドアーキテクチャー設計マップ

ブランドアーキテクチャーは、市場セグメンテーションとターゲティングの指示、合併と買収、競争力のあるポジショニング、そして、コスト重視のブランドの統合あるいは合理化と言った、多数の影響力を受け、それらによって形作られます。

これらの影響力に迅速に対応できるようにするために、ブランドアーキテクチャー設計の指針となる一定の原則として、「組織(売り手)の集権の程度」と「市場(顧客)への提供物の標準化、あるいはカスタマイズ化の程度」を特定しました。下図のような、二次元の設計マップが得られることを提示しています。

ブランドアーキテクチャー設計マップ略図

(Steve Muylleら1EXHIBIT3.を略図化)

[ブランドスタック]
市場が提供物を標準化した集権的な組織に適合します。標準化された製品を市場に出して、一元的なブランディングアプローチを開発する過程にある企業が利益を得ることができる型です。
Evonik(ドイツの大手コングロマリット)が代表例。

[ブランドパーク]
分権的なブランディングアプローチをとりながら、標準化された製品を市場に出す企業に適合します。市場で定評のあるブランドを取得するようなときに、複雑さが高いレベルのものを扱うことができます。ジョン

ソン&ジョンソンの医療機器が代表例です。

[ブランドタワー]
カスタマイズされた提供物(プロフェッショナルサービスを含む)を販売する集権的な組織の企業に適合します。多くの場合、特定の顧客の要件に合わせて調整されたものを提供しています。会計事務所や監査事務所が代表例です。

[ブランドサイロ]
企業が分権的で、異なる顧客セグメントにユニークで異なるさまざまなカスタマイズ製品を販売する企業に適合します。企業が提供物をカスタマイズすればするほど、ブランドプロミスを明確にし顧客にとっての利益を「リアル」なものにすることはより困難かつ複雑なものになります。すべてのファミリーブランドは、その会社と市場へのリスクを軽減しながら、特定の顧客の特定のニーズに対応し、事業会社固有のものになります。USGピープル(ヨーロッパの10カ国で、各独立事業会社を通して専門仕事サービスを提供する分会社)が代表例です。


ブランドアーキテクチャーを設計する際にマネジャーが知っておくべきこと

B2B企業は、実際、ブランドが営業部隊が期待する最高のサポートプラットフォームになる可能性がある場合でも、営業陣への投資を支持して、ブランドアーキテクチャーを無視する傾向があります。ブランドを設計する際に、マネジャーは次の3つのこと覚えておく必要があります。

最初に、ブランドは時間をかけて顧客のために意味を蓄積していく長期の資産です。
言い換えると、ブランド立ち上げ、またはブランド再構築の後、すぐに結果を期待し営業陣の予想を管理しないように。— 顧客がそれを信頼し始めれば、ブランド構築の努力から利益が得られます。

第2には、ブランドは一つでは成り立ちません。ブランドのコレクションは、アンブレラブランドがラインとモディファイブランドの取り組みを指揮するところの一つのチームとして設計する必要があります。購入プロセスの異なる段階毎の異なるリスクを和らげて、各々のブランドは異なる役割を果たしますが、同時に、ブランドアーキテクチャーは、キーとなる顧客の質問に対して、調整された回答のセットを提供しなければなりません。

言い換えると、ポートフォリオのブランド間の相互リレーションシップは、各々のブランドの個々のポジショニングと同じくらい非常に重要です。ブランドの階層を開発することの出発点は、購入プロセスのさまざまな段階で顧客のリスクを決定することです。ブランドアーキテクチャー(ブランド間の相互リレーションシップ)は、それらのリスクに対処することの体系的な方法です。

「集権的ー分権的」、そして「提供物の標準化ーカスタマイズ化」の2つの次元は、企業は、異なるB2Bコンテクストのための最適な設計をするために、自分自身をマップ上でポジショニングすることができます。

最後に、よくポジショニングされたブランドの一貫したコレクションは、その分野において、強力な競争上の優位として機能することを覚えておく価値があります。
例えば、競合他社や模倣者が、長年にわたって、Millad 3988をリーディング浄化器ソリューションとしてのその地位から落とそうと試みていますが、ミリケンはそのブランドアーキテクチャーの強さでその地位の防衛に成功しています。

【参考】B2Bブランドアーキテクチャー設計に関連する先行研究

ケラー3は、「生産財のための追加的なガイドライン」の項で、「コーポレートブランディングないしファミリーブランディング戦略を採用し、明確なブランド階層を作り出すこと」と主張し、

生産財企業は、製品ラインの数が多く製品バリエーションが複雑なため、論理的で明快なブランド階層を構築すべきである。例えば、生産財において特に効果的なブランディング戦略は、有名で一目置かれている企業名と記述的な製品モディファイアを組み合わせてサブブランドを構築することが有効であると述べています。

また余田ら4は、商品ブランド体系を整理する際の留意点として、次の事項を挙げています。
  1. 整理・統合の対象となる既存商品のブランドの資産価値が大きく、顧客や従業員がそれに対して強い愛着を持つ場合、既存商品ブランドの整理・廃止は慎重にすべきである。
     
  2. 統廃合される商品ブランドを代替する商品ブランド、あるいはその上の階層の企業ブランドや事業ブランド、サービスブランドにはどのくらいの資産価値があるのかを考慮して、代替するブランドの資産価値があまり大きくないか、あるいはまったく新しいブランドを立ち上げる際には、代替ブランドを育成するためにコストを慎重に計量すべきである。
     
  3. 商品ブランドの再整理に伴い、代替ブランドを育成するための投資以前に、既存ブランドを再整理する段階で、一時的ではあるが様々なコストが発生する。そのコストは、商品ブランドを再整理することによって得られるベネフィットに見合うものであるのかどうか、事前に十分な検討をしておくべきである。

参考文献

  1. Steve Muylle, Niraj Dawar and Deva Rangarajan,"B2B Brand Architecture", California Management Review, Vol. 54, No. 2, Winter 2012, pp. 58-71
  2. デービッド・A・アーカー(1996)陶山計介、小林哲、 梅本春夫、石垣智徳(訳)「ブランド優位の戦略ー顧客を創造するBIの開発と実践」(1997)ダイヤモンド社
  3. ケビン・L・ケラー(1998)恩蔵直人(監訳)「戦略的ブランド・マネジメント第3版」(2010)東急エージェンシー
  4. 余田拓郎、首藤明敏「B2Bブランディングー企業間の取引接点を強化する」(2006)日本経済新聞社

マネジメントダイバー 第02回 2013.08.27