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Business Scientific Engineering


株式会社 ビジネスサイエンティア

マネジメント ダイバーMANAGEMENT DIVER



【第08回】オンラインコミュニティによるブランド構築、共創とその成果
ーその2 「どのように参加は出現するのか、共創の成果は何か」


研究の目的

共創の分野では意味のある研究が行われてきましたが、どのように参加が現れ、 参加者が仮想の共創コミュニティに加わると、どのように発展するのかについての十分な情報がありません。 対照的に、関係性マーケティング*7分野における関係性と交流の発展などの関連プロセスとオープンソースソフトウェアのユーザの参加は広く研究されてきました。 本研究の第一の目的は、仮想ブランド共創コミュニティにおいて、どのように参加が現れ、発展するかを理解することです。

第二に、多くの研究は、組織または共創イニシアティブ(the co-creation initiative)の背後にあるブランドの視点を採っていますが、ここでは、消費者の視点から共創の成果を理解することに興味があります。 これまでの研究は、共創者(co-creators)として活動するための消費者の期待や動機づけについて検討されていますが、共創プロセスに関与している間と、その後のブランドに対する彼らの態度の変化についての研究はまだ少ないです。

第三に、コミュニティのコンテクストがクリエイティブ表現を強化するのかどうかの探求です。会話し共有し、そして他の人と共同作業をする機会があるコミュニティに参加することはクリエイティビティを高めるのでしょうか? いくつかの研究は、消費者は非常に効果的なイノベーターになる可能性を持っていて、インハウスのメンバーによって形成されたものを超えることができるほどの独自の貴重なアイデアを提供することができると示唆しています。

*7 関係性マーケティング(relationship marketing)
関係性マーケティングは、企業と外部との関係性に注目しているから、その基本枠組みとして、①関係性の結合対象と②関係性そのものの内容とを規定するところから始まる。従って、関係性マネジメントはまず、企業と顧客(生活者)との関係性、取引先(仕入先や流通業者)との関係性、資本家・投資家との関係性、そして社会・大衆との関係性といったさまざまな次元から論じることができる。これらの結合対象は、いわゆるステイクホルダー(stakeholder(企業を取り巻く関係集団))といわれるものである。しかし、関係性マーケティングを最も特徴づけているものは、むしろ関係性の内容であり、その中心概念はインタラクション(interaction(双方向交互作用))である。

信頼
インタラクションの内実の鍵概念のひとつは「信頼」であり、この概念はメーカーと流通業者との間の関係性という次元で考えるとわかりやすい。関係性の内実としての「信頼」の前提は、まず関係性発生の形態が二者間関係性(dyadic relation)であることであり、それはまた長期継続的な関係の形成を目的としたものであることである。そして、「信頼」とは自分が相手を信頼し同時に相手も自分を信頼するという二者間のインタラクティブな関係である。より具体的にいうならば、「信頼」とは、自らが仕手になんらかの報酬(たとえば商品の発注)を期待し、相手がその期待どおりに行動すると認識することと定義される。当然ながら、このような信頼は「裏切り」というリスクをともなう。ただし、二者間にインタラクティブな信頼が存在すれば、このようなリスクは最小化される。最終的には、双方の側で「期待ー実行」という図式が繰り返されれば、信頼はしだいに強固なものとなっていき、長期継続的な取引関係が維持され、取引コストが減少していく。

(以上、和田充夫ら7「マーケティング戦略」より)


研究の方法

2011年4月に、6つの既存のホスト型共創コミュニティの参加者と共に、新コミュニティ「the Brand Together community」を立ち上げました。 既存のコミュニティからランダムに300人の積極的な参加者を選び、新しいコミュニティへ参加するよう呼びかけました。

最終的に、236人が参加することに合意し、コミュニティーは52日間運営され、1935時間オンラインで過ごした間に、14130の貢献が形成されました。 誰もがすべての活動に貢献するというわけではなく平均参加レベルは75%でした。参加者が集合的に形成したコンテンツは、研究プロセスの一部として公開されることを通知し、参加者一人あたりの平均報酬は£8ギフト券でした。

この共同研究では、共創コミュニティにおいて重要である、研究プロセスと質問の問い掛け、コメントへの対応、定期的なフィードバックの提供(とさらなるコメントを求める)、そして示唆に富むディスカッションの司会を積極的に行いました。

参加者には、すべての活動の目的について十分に知らされ、参加者お互いのコメントやモデレーター*8のものも開示されました。 この参加型ネトノグラフィックアプローチ(participative netnographic approach)*9では、コミュニティの信頼を構築し、クリエイティビティのための条件を形成することに注力されました。

*8 モデレーター
進行役

*9 ネットノグラフィ(netnography)
ネット上のテキストデータをエスノグラフィック*9-1に分析する方法論。ネット・コミュニティの要素をテキストベースに限定し、残された文章を言説や会話とみなしてコミュニティを読み解く手法である。
http://www.nyu.edu/classes/bkg/methods/netnography.pdf http://marketing.eller.arizona.edu/docs/papers/Hope%20Schau/Muniz_Schau_2005_Religiosity.pdf

(西川英彦ら8「ネット・コミュニティにおけるアバター効果の考察:日韓アバターサイトの事例分析」より)

*9-1 エスノグラフィック
本稿、後述参照(*12)

研究の結果
「共創の成果は、ブランド・インティマシーとクリエイティビティ」

研究結果は、人々にとっての参加の重要性、参加の成果としてのブランド・インティマシーとクリエイティビティ、そして共創の未来、大きく3つのテーマに分類されます。

●人々にとっての参加の重要性

参加(コネクションの構築と意味の開発において活動的な役割を担っている)は、時間をかけて出現します。参加者は、ブランドインプット(brand input)を提供し、自分自身を表現し、お互いの意見を共有するために、志が同じ人々に出会い、つながったという内発的要因によって、顕著に動機づけられました。 外発的要因は主要な動機づけ要因ではなく、コミュニティ活動に参加して時間を過ごすことの正当化として重要と思われました。

167人(全体の71%)の人々が、オンラインコミュニティに参加してどう感じたかについて問うコミュニティ体験投票(強く反対する"(1)から、"強く同意する"(5)までの5点リッカート尺度*10)に参加しました。"同意する"と、"強く同意する"のスコアは、”満足感”、”有効に利用される時間”、刺激的なプロセス”、”自己表現”、”楽しい体験”すべてに対して80%以上でした。

次に参加者は、コミュニティの組織構造(structure)やモデレーションについて質問されました。201人の回答者には3つのオプションがあり、組織構造とモデレータが多すぎる(1人)、組織構造とモデレータが適切なレベル(85%)、そして組織構造とモデレータが足りない(15%)でした。 コメントの多くは、モデレーターと他のコミュニティメンバーとの交流の質を理由に参加型のアプローチを支持していました。 また何人かの回答者は、これらのコミュニティから引き出されるエンゲージメントと充実感は、彼らが参加している他のオンライン活動と比較して、明確に区別しなければならないと指摘しました。

*10 リカート尺度
アンケート設計などの測定尺度は、基本的に、名義区分、順序区分、そして間隔尺度で大別されるが、リカート尺度は、順序区分に属し、順序尺度には、強制順位付け(「1位から順位をふって下さい」形式)、ペア比較(「2つのうち好きな方に○を」形式)があり、リカート尺度は、各段階に名前をつけ、例えば、(「非常に好き、好き、どちらとも、等々に-2, -1, 0 などの数字が付いている」形式)になる。

(以上、藤本隆宏ら9「アンケート設計」尺度と統計処理 より)

共創の成果(Outcomes of Co-Creation)
参加者は、コミュニティに参加する前と後で、ブランドに対する認識、親しみや自身のクリエイティビティについての感じ方がどう変わったかを熟考しました。
●ブランド・インティマシー(Brand Intimacy)*11

参加者がブランドをポジティブに見ていたかどうか(「非常にネガティブ」から「非常にポジティブ」までの5点リカート尺度)については、回答者(210人)の62%が、コミュニティに参加する前は「ポジティブ」あるいは「非常にポジティブ」と感じていたのに対して、参加後のブランドの認識は、84%まで増加しました(「非常にポジティブ」が19%から30%に増加) 。

ブランドに対する彼らの認識が、正の変化を記録したことには2つのコア要因が考えられます。
まず、ブランドについてより多く学ぶほど、彼らはよりポジティブに感じるようになったこと。
第二に、意見を聞かれることによって、ブランドの今後の方向性へある程度の影響力を持てるという内的報酬を感じるようになったこと 。

ブランド・インティマシーの測定として、さらに、"ブランドとのリレーションシップについて、 レギュラーコミュニティに参加する以前と後で、どれくらいブランドに対して近く/遠く感じたか?について質問(「非常に遠い」から「非常に近い」にまでの5点リッカート尺度)しました。
回答者(210人)の27%が、コミュニティに参加する前は、「近い」あるいは「非常に近い」と感じていたのに対して、参加後は、69%に増加しました(「非常に近い」と感じた人が参加前と後で、3%から20%にまで増加) 。



●クリエイティビティ(Creativity)*11
"私はコミュニティ自体が自分自身をクリエイティブにすることができると感じる"という発言に反応して、回答者の70%は、「同意する」(49%)、「強く同意する」(21%)を示しました。 "クリエイティブ"という概念を明確にする(pin down)ことは難しいことですが、回答に添えて書かれていた、233のコメントが、新規性と妥当性のあるアイデア以上に啓蒙的でした。クリエイティビティの自己認識のニュアンスを示唆していました。

それらは、人々はクリエイティビティを、参加者が他者に影響を与え、 また他者のアイデアから影響されるグループプロセスとして、見ていることを示していました。 またクリエイティビティはほぼ自由であり、人々はお互いを信頼し、自分のアイデアを表現し、アプローチしている問題に対し新たな方法で実験することができる、オープンな環境を必要としていることを示唆していました。 参加者は、誰もがクリエイティブであり、あるいは、はずであると強く信じ、クリエイティビティの諸相は人生のすべての分野で見い出すことができると主張していました。

”私たちの社会が間違っていることは、人は大人になると、彼/彼女が非常に知的である、あるいは勉強してきた人だけが、 クリエイティブになることができると信じてしまうことです。これは完全に間違っています。私は、教育を受けていない人々でも、誰もが自分自身の方法でクリエイティブになれると信じています。クリエイティビティとは物事の見方であり、学習や脳の容量に必ずしも依存しません。。。”

クリエイティビティの出現のさらなる証拠として、今回の実験コミュニティの参加者が選ばれた既存コミュニティの一つである、 ダノンのアクティビアコミュニティ(Danone Activia community)では、参加型の方法でモデレートされ、新製品の開発とコミュニケーションに取り組み、5カ月間以上で400人の女性が参加しました。 このコミュニティでは、参加者から15,000の貢献が形成され、伝統的な調査方法に比べて、コミュニティはより多くのインサイトを開発し、82%がより効果的と評価しました。結果的に、10の新製品の提案がクリエイト、開発され、2つは成功するまで継続されました。

*11 なぜ、クリエイティビティに対してインティマシーか?
共創の成果として、創造性を議論する際に、なぜインティマシーが出てくるのか?、少しマーケティングの世界を離れてみることにします。
Ronald A. Finkeらの「創造的認知」という本の中で、問題解決あるいは創造性と親密さの議論をしているので、参考までにご紹介します。

Levine(1987)は「親密なかかわり(intimate engagement)」の概念を問題解決が成功するための重要な予備条件として導入した。その基本的な考え方は、問題を効果的に解決するためには問題に深くコミットし関与する必要があるということである。気を散らされたり無関心な状態で問題を単に表面的、超然的な仕方で扱うわけにはいかない。この親密性はただ「自動的に」あるいは「ぼんやりと」は生じないのである(Langer 1989)。問題の重要性を意識し、参画と関与の必要性に気づかなければならない。
われわれは創造性においてもこのことは心理だと考える。創造的なアイデアの意味と可能性の豊かさを充分に感じるためには、それに個人的にかかわっている必要がある。

(以上、Ronald A. Finkeら3「創造的認知」2.4.2 親密さの創造 より)


●共創の未来(The Future of Co-Creation)
参加者は、クリエイティビティを発揮するために、イノベーションの実践にも挑戦しました。共創の実践力(practice)が高められるコンセプトを開発するために、個人と共同の両方で作業をし、次の3つの部分プロセスで管理されました。
  1. アイデアルーム(Ideas Room)
    アイデアや提案を投稿できるスペース。お互いのアイデアをレビューし、投票することができる。

  2. 開発(Development)
    ベストなアイデアを採用し、キーとなるテーマの下でそれらを一つのグループにまとめる、その後、コミュニティにそれらを返す。

  3. ろ過(Filtration)
    コミュニティに提示することができるように、開発したアイデアを1つのフォーマットに落とし込み、他のチームの作品にコメントし投票する。
アイデアルームでは、参加者は個々のアイデアを提案し、ランク付け分類した後に、モデレーターによって8つのアイデア開発にグループ化されました。 より詳細な提案をコミュニティでディスカッションした後、コメント格付け評価、グループ化し、8つの命題にフィルターをかけました。

一例に、出現した一つのアイデアは、エスノグラファーとして行動する消費者のために一つの機会を創造しました。テーマに集中する人とメカニズムについて考える人と一緒になって、さまざまな方法で消費者エスノグラフィーの要素について話し合われました。 参加者のエスノグラフィック調査*12のトレーニング不足を補うために、明確で簡潔な説明とビデオチュートリアルを通して、彼らのスキル開発をサポートする、刺激を提供し質問に答えるモデレーターが必要でした。

*12 エスノグラフィック調査
人類学の研究アプローチをビジネスに活用しようとする一連の手法は、エスノグラフィック調査と呼ばれている。
人類学者たちは、未開の地に入り込み、そこに住む人々と生活を共にすることで、特異に見える物事の背後にある共通の構造を見出そうと努めてきた。この人類学の調査手法が、とりわけマーケティングの分野で再評価されている。単に直接観察するだけにとどまらず、人類学の手法そのものに学ぼうというものである。

例えば、P&G社は、2002年、2種類の調査プログラムを立ち上げた。1つは、社員達が数日間、消費者の家庭で一緒に食事をしたり、買い物についていったりする「Livin'it:生活してみる」。もう1つは、小売店を手伝いながら、買い物客が何を買い、何を買わないかなどを観察する「Workin'it:働いてみる」がある。

エスノグラフィック調査は、「企画」「準備」の後、「調査」「分析」「統合」「開発」というプロセスを踏んでいき、メンバー全員が終始一貫して、消費者のモード、観察者のモード、マーケターのモードを臨機応変に使い分けながらプロジェクトを進めていく。 エスノグラファーの心得として、①没頭する②あらゆる先入観を排除する③専門家や専門的な知識に引きずられない④判断をいったん保留する⑤忠実に記録する、がある。

(白根英昭11の「エスノグラフィック・マーケティング」より)


参考文献

  1. Nicholas Ind, Oriol Iglesias, Majken Schultz, "Building Brands Together: Emergence and Outcomes of Co-Creation", California Management Review, Vol. 55, No. 3, Spring 2013, pp. 5-26
  2. 桶谷 功(著)「インサイト」(2005)ダイヤモンド社
  3. 西尾チヅル(編著)竹内淑恵、野村千佳子、木村純子、芳賀麻誉美、白井美由里、清水聡子、戸谷圭子、井上淳子「マーケティングの基礎と潮流」(2007)八千代出版
  4. C. K. Prahalad and V. Ramaswamy(著)有賀裕子(訳)一條和生(解説) 「コ・イノベーション経営 価値共創の未来に向けて(The Future of Competition: Co-Creating Unique Value with Customers (Boston, MA :Harvard Business School Press, 2004)」(2013)東洋経済新聞社
  5. 和田充夫・新倉貴士(編)懸田豊、恩蔵直人、三浦俊彦、松下光司、久米勉、土橋治子、田嶋規雄、碇朋子、渋谷覚、諏訪晴美、駒田純久「マーケティング・リボリューション」(2004)有斐閣
  6. 青木幸弘(編著)徳山美津江、四元正弘、井上淳子、菅野佐織、宮澤薫(著)「価値共創時代のブランド戦略」(2011)ミネルヴァ書房
    ブランド論の変遷からはじまり、価値と関係性という2つのキーワードを主軸に最新の研究成果まで、本書一冊で一通り学べるようになっているブランド論の良書です。内容的にはまだ新鮮で改訂は不要と思います。ぜひ、このままのかたちで重版をお願いします。
  7. 和田充夫、恩蔵直人、三浦俊彦(著)「マーケティング戦略(第4版)」(2012)有斐閣アルマ
  8. 西川英彦、金雲縞、水越康介「ネット・コミュニティにおけるアバター効果の考察:日韓アバターサイトの事例分析」Vol.4 立命館ビジネスジャーナル(2010年1月)http://www.ritsbagakkai.jp/pdf/b004_02.pdf
  9. 藤本隆宏、高橋伸夫、新宅純二郎、阿部誠、粕谷誠(著)「リサーチマインド 経営学研究法」(2005)有斐閣アルマ
  10. Ronald A. Finke, Thomas B. Ward and Steven M. Smith(著)小橋康章(訳)「創造的認知ー実験で探るクリエイティブな発想のメカニズムー(CREATIVE COGNITION Theory, Research and Applications (1992)」(1999)産業図書
  11. 白根英昭「エスノグラフィック・マーケティング(Ethnographic Marketing)」マーケティングこそすべて」(Harvard Business Review)(2010, October)ダイヤモンド社
  12. Scott Cook「インテュイット 無償の貢献を引き出すビジネスモデル(The Contribution Revolution Letting Volunteers Build Your Business)」:DIAMONDハーバードビジネスレビュー「優位の教訓」(Harvard Business Review)(2008, December)ダイヤモンド社
  13. 西田豊明、角康之、松村真宏(共著)人工知能学会(編集)「社会知デザイン」(2009)オーム社

マネジメントダイバー 第08回(その2) 2014.06.04