【第1回】なぜ一部のCIOだけが非凡な成功を収めることができたのか?
CIOの役割は進化し続けており、CIOの成功の決定要因は、とらえどころのないままです。
James Spitze と Judith J. Lee1は、14人の非常に成功したCIO(「ルネサンスCIO」と呼ばれる)を選び、構造化インタビュー方式によるキャリア調査を行い、CIOの役割としてのキャリア固有の最も重要な成功要因の特定に取り組みました。
James M. Spitze is the Executive Director of the Fisher Center for the
Management of Information Technology and its CIO Leadership Program within
the Institute for Business Innovation of the Haas School of Business, UC
Berkeley.
Judith J. Lee is Lecturer in Operations & IT Management, and Program
Director for both Health Services Management and Project Management, Ageno
School of Business, Golden Gate University.
増大するCIOの役割の重要性
CIOの役割については未熟なままであり、まだ明示されたものは見出されていません。
IT技術製品やサービスは、この50年以上に渡って急速に変化しており、その役割のクロスファンクショナル性は拡大し続け、現在では、しばしば、ベンダー/サプライヤー("上流")から最終顧客("下流")まで見ることが含まれるようになってきています。
コンピュータのハードウェア、ソフトウェア、および通信技術が進歩するにつれて、頻繁に、CIOの役割を示すタイトルの"I"の意味が議論になってきました。それは、Informationなのか、またはInfrastructure、Integration、またはIntelligence、またはInnovationなのか?などです。
現在、多くの企業のCIOが提供するコンセンサスの答えは、正確な組み合わせは特定の状況に応じて、随時変更される可能性は高いが、これらのすべての組み合わせであるとしています。
20世紀前半は、ほとんど統合されていなかった手作業のビジネスプロセスが、CIOの役割の重要性が増大するにつれて、高度に統合され、高度に自動化されるようになってきました。今日では、企業の内外の情報の流れのすべての側面を、本質的に監督する役割に広がってきました。
※CIOの役割については、日本では、例えば、NTTデータ経営研究所
2は、パフォーマンスに関する管理、コストに関する管理、リスクに関する管理として、CIOの機能に対して次のように整理しています。
CIOの機能 |
パフォーマンスに関する管理 |
コストに関する管理 |
リスクに関する管理 |
IT戦略ビジョンの策定と経営層の支持獲得 |
○ |
○ |
○ |
現状の可視化による業務改善の推進とITによる最適化の実現 |
○ |
○ |
ー |
安定的なIT構造の構築 |
ー |
○ |
○ |
ITマネジメント体制の確立 |
ー |
○ |
○ |
IT投資の客観的評価の実践 |
○ |
○ |
ー |
IT人材の育成・活用 |
○ |
ー |
○ |
情報セキュリティ対策・情報管理の強化 |
ー |
ー |
○ |
卓越した成功の目に見えない要因は何か
James Spitzeら1は、「なぜ一部のCIOだけが会社に永続的な競争上の優位性のある大きな影響を与えることができたのか、何が、業界全体のビジネスのやり方までを変えることを可能にさせるのか」に注目し、次の成功要因を特定しました。
- must be a life-long learner;
生涯学習者でなければならない。
- must be able to build and motivate cross-functional teams and, thereby,
marshal the collective intelligence of an enterprise;
モチベーションの高いクロスファンクショナルチームを築き、それによって、企業の集団的知性を整理できなければならない。
- must be able to conceive and implement a customer-focused game-changing
project that impacts the enterprise's end-customers in a major and enduring
manner.
主要かつ永続的な方法で、企業の最終顧客に影響を与える顧客中心のゲームチェンジプロジェクトを着想し実行することができなければならない。
これらの3つに加えて、業界、会社、上司、社員を賢く選ぶ(そして、関係のあるすべてのミステイクは迅速に訂正する)ことは明らかに必要なことであるとして、さらに、これらの本質的な成功要因以外に、次の5つの二次的要因を示唆しています。
- learn your employer's business “inside and out”;
あなたの雇用主の事業の"内と外"を学ぶ;
- develop your emotional intelligence;
あなたの感情的知性を開発する
- become trusting and trustworthy;
人を疑わず、信頼できる人となる
- learn from an extensive network of friends, mentors, protégés;
友人、メンター、弟子の広範なネットワークから学ぶ
- develop a compelling, achievable vision
説得力のある、達成可能なビジョンを開発する
そして最後に、次のように結んでいます。
「ルネサンスCIOから顧客中心の視点が彼らの成功の必須条件であることを学んだ。
つまり、生涯学習者であることが不可欠で、効果的なクロスファンクショナルチームを構築することができるということも重要あるが、それぞれのルネサンスCIOが、CIOの職業の一番上に彼らを配置した雇用者の最終顧客の利益のために、その知識とスキルで何をやってきたかということがより大切である」。
成功要因と”運”
Spitzeら1の研究は、CIOのケーススタディと言えるものですが、面白いところは、インタビューの派生データとして、個人属性、誕生年、受けてきた教育、親の影響、リレーションシップ、モチベーター、キャリアアクションなどの視点までも評価したところです。
そして、誰もが素朴に興味を持つ、”運”については、
「これらのCIOにとっての成功は、”運”というよりも、”タイミング”ともっとリンクさせることができる。そして、IT技術の転換点自体がルネサンスCIOの成功に著しく貢献しているというのは言い過ぎで、1960年代~1970年代のコンピュータ時代、1980年代~1990年代の情報化時代、そして1990年代~2000年代のインターネット時代の各転換点が、新たな環境を提供したという方が正確だ」としています。
※感情的知性(Emotional Intelligence)
emotional intelligenceは、日本では、ダニエル・ゴールマン3で、広く知られるようになりました(EQ:Emotional Intelligence Quotientの略、心の知能指数)。同じDaniel
Goleman4では、emotional intelligenceは、リーダーになるための不可欠な能力として、次の5つの要素からなるとしています。
The Five Components of Emotional Intelligence at Work |
|
定義(definition) |
特徴(hallmarks) |
Self-Awareness
自己認識 |
the ability to recognize and understand your moods, emotions, and drives, as well as their effect on others
自分のムードや感情、そして欲求を理解し把握して、それらが他の人に与える影響を認識している能力。
|
self-confidence
自信
realistic self-assessment
現実的な自己評価
self-deprecating sense of humor
自虐[自嘲]的なユーモアのセンス |
Self-Regulation
自己規制 |
the ability to control or redirect disruptive impulses and moods
破壊的な衝動やムードをコントロールし、方向を変える能力
the propensity to suspend judgment-to think before acting
行動する前に考えるように、判断を停止する性向
|
trustworthiness and integrity
信頼性と完全性
comfort with ambiguity
曖昧さによる快適さ
openness to change
変化への開放性 |
Motivation
動機付け |
a passion to work for reasons that go beyond money or status
お金あるいはステータスを超える理由のために働く情熱
a propensity to pursue goals with energy and persistence
エネルギーと持続でゴールを追求する性向
|
strong drive to achieve
達成するための強いドライブ
optimism, even in the face of failure
楽観主義、失敗に直面したときでさえも、
organizational commitment
組織的なコミットメント |
Empathy
共感(感情移入) |
the ability to understand the emotional makeup of other people
他の人々の感情的な構造を理解する能力
skill in treating people according to their emotional reactions
彼らの感情的な反応によって人々を扱うスキル
|
expertise in building and retraining talent
才能を構築し再訓練する専門知識
cross-cultural sensitivity
異文化間の感度
service to clients and customers
クライアントとカスタマーに対するサービス |
Social Skill
社交術 |
proficiency in managing relationships and building networks
リレーションシップを管理し、ネットワークを築く能力
an ability to find common ground and build rapport
共通の基盤を見つけて、関係を築く能力
|
effectiveness in leading change
主要な変化の効果
persuasiveness
説得力
expertise in building and leading teams
チームを築きリーディングする専門知識 |
参考文献
- James Moffat Spitze and Judith J. Lee, "The Renaissance CIO Project(The
Invisible Factors of Extraordinary Success)", California Management
Review, Vol. 54, No. 2 (Winter 2012), pp. 72-91
- NTTデータ経営研究所編著「CIOのITマネジメント」(2007)NTT出版
- ダニエル・ゴールマン著「EQ EMOTIONAL INTELLIGENCE こころの知能指数」(1996)講談社
- Daniel Goleman, "What Makes a Leader?", HARVARD BUSINESS REVIEW,
November-December(1998), HBR Magazine (2004)(再版)
マネジメントダイバー 第 1回 2013.08.07