1.組織能力モデル
ビジョナリーカンパニー①「時代を超える生存の原則」では、「仕組みをつくる」ことが強調されていました。ビジョナリーカンパニーになるには、まず、次々とすぐれた製品やサービスを生み出していく卓越した組織をつくること。そして、その卓越した組織をつくるためには、仕組みをつくることであると示していました。
このことは、組織能力としては、「仕組みを考え、つくる能力」、すなわち「仕組み構築能力」が重要な要素であるということを意味しており、私たち自身のこれまでの経験を振り返っても、共感できるものです。
そして、この「仕組み構築能力」を中心に考えると、「改善・進化能力」と「目標達成能力」が加わると考えられ、組織能力としては、下図のようなモデルになると考えています。
「仕組み構築能力」
ここでいう仕組みとは、「tangible mechanisms aligned to preserve the core and stimulate
progress. This is the essence of clock building.」であり、営業拡販の仕組み、企業活動を支える諸制度、生産システムなども含めた、企業活動のすべての業務における、「時計のように動き続ける仕組み」を作り上げる能力を指しています。
「改善・進化能力」
構築された仕組みの問題を発見し改善していく能力、また環境の変化に対し、その前提となっている制約条件そのものから自ら問い直し、取捨選択と試行錯誤しながら、その仕組みを進化させていく能力を指しています。
「目標達成能力」
仕組みを構築するにしても、構築された仕組みを利用するにしても、企業活動である以上、企業の戦略的目標に合致しそれを達成することが求められます。戦略的目標を具現化しそれらを確実に実行し遂行できる能力を指しています。
*基本理念については、2基本理念参照
本モデルは、私たちが、「組織能力を高める、経営と現場の仕組み作り、IT活用を支援する」というコンセプトを実行するにあたっての基礎としているものです。
2.組織にとって必要な基本的能力
企業の組織能力について考える上で、ジェームズ・コリンズ、ジェリー・ポラスの調査研究「ビジョナリーカンパニー」シリーズの①「時代を超える生存の原則」(1994)が、私たちに役立つ示唆を提供してくれています。
この「ビジョナリーカンパニー」シリーズは、ジム・コリンズらが、現在までに、②「飛躍の法則」、③「衰退の五原則」、④「自分の意志で偉大になる」と、計4巻書いています。
①は経営書として古いと思われる方がおられるかもしれませんが、そういうことはなく、企業の生存という経営の大原則をテーマとしてくれているので、組織にとって必要な基本的能力を考える上で大変参考になるものです。
ここで、「ビジョナリーカンパニー」とは、ビジョンを持っている企業、未来志向な企業、先験的な企業であり、業界で卓越した企業、同業他社の間で広く尊敬を集め、大きなインパクトを世界に与え続けてきた企業」としています。
著者らは、「真に卓越した企業と、それ以外の企業との違いはどこにあるのか」という問いに、6年間かけて調査し、取り組みました。この研究の面白いところは、一般的な経営書と違って、企業の設立から1991年に至るまでの企業の歴史全体を調査し、同じ業界の別の企業と直接比較しているところです。著者は、「このやり方は、固定観念になっている神話に疑問を出し、時代を超えて幅広い業種に適用できる基本原則を見分ける重要な方法である」と言っています。
この「時代を超える生存の原則」の結論として、次の4つの提示をしています。
1.Be a clock builder - an architect - not a time teller.
時を告げる予言者になるな。時計をつくる設計者になれ。
2.Embrace the "Genius of the AND".
「ANDの才能」を重視しよう。
3.Preserve the core/stimulate progress.
基本理念を維持し、進歩を促す。
4.Seek consistent alignment.
一貫性を追求しよう。
3.基本理念
ここで、基本理念とは、「基本理念=基本的価値観+目的」としています。
「基本的価値観」とは、
組織にとって不可欠で不変の主義。いくつかの一般的な指導原理からなり、文化や経営手法と混同してはならず、利益の追求や目先の事情のために曲げてはならないものとしています。
「目的」
単なるカネ儲けを超えた会社の根本的な存在理由。地平線の上に永遠に輝き続ける道しるべとなる星であり、個々の目標や事業戦略と混同してはならない。
としており、理念に不可欠な要素はない。理念が本物であり、企業が理念を貫き通しているかの方が理念より重要である。としています。
4.「時を告げるのではなく、時計をつくる」とは、
これについては、原文の方がわかりやすいので、
P.23 chapter2 Clock building, Not Time Telling [BUILT TO LAST, 1994, James
C. Collins and Jerry I. Porras.]の内容の一部をそのまま、原文と和訳を併記してご紹介します。
IF you are involved in building and managing an organization, the single
most important point to take away from this book is the critical importance
of creating tangible mechanisms aligned to preserve the core and stimulate
progress. This is the essence of clock building.
組織を築き、経営している読者に向けた本書の主張のなかで、何よりも重要な点を一つあげるなら、それは、基本理念を維持し、進歩を促す具体的な仕組みを整えることの大切さだ。これが時計をつくる考え方の神髄である。
Having a great idea or being a charismatic visionary leader is “time telling”;
building a company that can prosper far beyond the presence of any single
leader and through multiple product life cycles is “clock building”.
すばらしいアイデアを持っていたり、すばらしいビジョンを持ったカリスマ的指導者であるのは、「時を告げること」である。ひとりの指導者の時代をはるかに超えて、いくつもの商品のライフサイクルを通じて、繁栄し続ける会社を築くのは、「時計をつくること」である。
the builders of visionary companies tend to be clock builders, not time
tellers. They concentrate primarily on building an organization-building
a ticking clock-rather than on hitting a market just right with a visionary
product idea and riding the growth curve of an attractive product life
cycle.
ビジョナリーカンパニーの創業者は、概して時を告げるタイプではなく、時計をつくるタイプであった。こうした創業者にとってもっとも大切なのは、会社を築くこと、つまり、時を刻む時計をつくることであり、ビジョンのある商品アイデアで大ヒットを飛ばしたり、魅力ある商品のライフサイクルの成長カーブに乗って飛躍することではない。
And instead of concentrating on acquiring the individual personality traits
of visionary leadership, they take an architectural approach and concentrate
on building the organizational traits of visionary companies.
ビジョンを持って指導力を発揮するカリスマ的指導者になることに全力を傾けるのではなく、建築家のようなやり方で、ビジョナリーカンパニーになる組織を築くことに力を注ぐ。
The primary output of their efforts is not the tangible implementation of a great idea, the expression of a charismatic personality, the gratification of their ego, or the accumulation of personal wealth. Their greatest creation is the company itself and what it stands for.
こうした努力の最大の成果は、すばらしいアイデアを目に見える形にすることや、カリスマ性を発揮することや、エゴを満たすことや、自分の富を築くことではない。その最高傑作は、会社そのものでありその性格である。