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Business Scientific Engineering


株式会社 ビジネスサイエンティア

マネジメント ダイバーMANAGEMENT DIVER



【第05回】組織のフラット化が意味するものは何か。単純ではないその真実
ーその1「単純ではないフラット化と組織の意思決定」

何十年もの間、経営コンサルタントとビジネス・プレスは、大企業に組織のヒエラルキーをフラット化するように主張してきました。(組織をフラット化する(または、ディレイヤリング(delayering)する)ことは、会社の組織的ヒエラルキーの階層の除去(elimination)とマネジャーの管理範囲(span of control)を広げることを指します。)

実際、ボストンコンサルティンググループは、企業のピラミッドをフラット化する、その独自のアプローチを指定する「delayering」という用語を2005年に商標登録の申請しているようです。

フラット化することの論理的根拠は、さらなる競争に直面して競争力を保つためには、正しいように見えます。例えば、企業はより迅速に顧客に応えることができる、合理的で効果的な組織を追求しなければなりません。

フラット化することでコストを下げると言われていますが、その利点は、「意思決定を下に押し下げることによって、企業の顧客と市場への反応を強化できるだけでなく、責任とモラルも向上させることができる」という内部統治(Internal governance)の変更によってもたらされます。

大企業はそのヒエラルキーをフラット化しているのでしょうか?、そして、もしそうなら、フラット化はこの約束をもたらし、より下位レベルのマネジャーに意思決定を押し下げているのでしょうか?
、フラット化することは現実に何を意味しているのでしょうか?

Julie Wulf1は、これらの質問に厳密に答えるために、米国の大企業のフラット化実態の調査研究を行い、次のような興味深い結果を私たちに提供してくれています。
  1. 企業は1986年から1998までの間にディレイヤリングを実施した 。
  2. 同じ期間に、最高経営責任者(CEO)はその管理範囲を劇的に広げた。
  3. またトップマネジメントのヒエラルキーでは、最下位レベルのポジションである事業部マネジャーのインセンティブや給与の構造を変更した。
  4. CEOらはまた、彼らに直接報告するポジションの種類の構成を劇的に変えた。 トップ幹部チームを構成するコーポレートスタッフ(または職能マネージャー、例えば、CFO、CHRO、CIO)の数を劇的に増やした。
  5. 職能マネジャー(functional managers)が経営陣に加わったことで、事業部マネジャー(division-manager)の給与は下がった。特に、この関係は、管理職能(administrative functions)(例えば、財務、法務、人事)ではなく、本来、事業部マネジャー(例えば、マーケティング、R&D)の責任である活動を行う”製品"職能マネジャー( “product” functional managers)によって動かされている。

Julie Wulf is an Associate Professor at Harvard Business School and is a Co-Editor of The Journal of Law, Economics, & Organization.

大きく変わった組織の階層

企業のヒエラルキーは、1986年から2006年までの期間で劇的に変わりました。 CEOは上級管理職の階層構造はフラット化(階層をなくし管理レベルを除いて管理範囲を広げる)していました。図1に、従来の複数事業部制の企業とフラット化された企業の広範な構造上の違いを示します。


図1「フラット化された企業(1986年~2006年米国の大企業の具体的な例)」( Julie Wulf1 EXHIBIT 1.「The Flattened Firm (Illustrative Example for Large U.S. Firms from 1986-2006)」より)
Note: DMs :Division Managers, the lowest-level managers with profit-center responsibility

ディレイヤリング

企業は1986年から1998までの間にディレイヤリングしました。彼らは、体系的に上級管理職のヒエラルキー構造の階層を除去していました。例えば、最高執行責任者、Chief Operating Officer(COO)はますます希少になってきています。COOを持つ企業数は1986年から1998年の間で約20%減少 (1986年に55%あったCOOが、1998年にわずか45%になっていた)しました。

ディレイヤリングは、単に一つの中間のポジションを除去することから成るものではありません。 より全体的なディレイアリングの肖像をとらえるために、深さ(Depth)(CEOと事業部マネジャー(一貫して利益センタ責任を持つ最下位レベルマネジャーとして定義されている)の間の階層的ポジションの平均数として定義して)を測定したところ、事業部のヘッドとCEO間のポジションの数は、1.6(1986年)から、1.2(1999年)へ約25%減少していました。

同じ事業部マネジャーのポジションを追跡してみると、そのポジションはそのヒエラルキーのトップにより近づいたことがわかりました。つまり、このような変更はリストラだけでは説明できるものでなく、 企業はディレイヤ(delayer)して管理レベルを除去したことを示唆しています。

より広くなったCEOの管理範囲

CEOに直接報告するポジションの数は、4.5(1986年)から、ほぼ 7(1999年)に増加しました。 また、CEOの管理範囲は、4.7(1980年代)から9.8(約20年後)倍以上になったことを示しています。幹部チームのサイズは20年間で倍増しました。

この管理範囲の増加の一部は、COOのような中間ポジションの廃止によるものでした。しかし、COOを持たない企業でさえも、CEOに報告するポジションの数が大幅に増加しています。 広い管理範囲は、CEOに直接報告する事業部マネジャーがポジションアップする移動によって可能となりました。

また、最高人事責任者 Chief Human Resource Officer(CHRO)のような既存のポジションの重要性の高まりに加えて、最高情報責任者 Chief Information Officer(CIO)のように、新しい職能マネージャ(または"コーポレートスタッフ")のポジションも上級幹部チームに加わりました。

CEOらは、自社の製品市場の競争激化に対応して、多様化を減らして事業ポートフォリオを狭め、同時にディレイヤして彼らの管理範囲を増やしました。このことは、企業は取り巻く環境の変化に応じてフラット化していることを示唆しています。 言い換えれば、企業は事業のポートフォリオを狭める必要性に直面して、意思決定の仕方を変更し、コストを削減するためにフラット化するのかもしれません。

単純ではないフラット化と組織の意思決定

企業はフラット化して、歴史的に最下位レベルなポジションである事業部マネジャーのインセンティブや給与の構造を変更しました。つまり、企業は事業部マネジャーに意思決定を委任すると同時に、彼らが企業のための良い意思決定を行うことを保証するために、彼らの給与に業績をリンクさせました。 調査結果は、ディレイヤした企業が事業部マネジャーに大きな意思決定の権限を委任したことを示唆しています。

具体的には、事業部マネジャーがトップにより近づいたことで、彼らの給料は、報酬の金額(給与+ボーナス)と企業の業績(ストック・オプション、制限付株式)に直結するその割合の両方で増加しました。そして、事業部マネジャーは、より大きな企業全体の責任を伴うポジション、時間の経過とともに役員に任命されることが多くありました。 決定的ではないものの、これらの事実は、ディレイヤした企業の下位レベルのマネジャーへのより大きな権限委譲と一般的に一致しています。

このことは、フラット化は、企業が競争の激化に直面して、期待されるとおりに行い、企業は意思決定を分権化し、下位レベルに意思決定の権限委譲を行なっているように見えます。 しかしながら、現実はそう単純ではありません。つまり、

広い管理範囲は、CEOが部下の意思決定に干渉することを防ぐことができます。CEOらは時間に制約されているので、直属の部下が直接報告するとき、彼らは部下により少ない時間しか割り当てられないことになります。 それは、部下がより多くの意思決定を行っていて、CEOらは押し下げるように、部下に多くの意思決定を任せていることになります。ー分権化の形を示しています。

他方で、広い管理範囲は、CEOが組織内でより深くより直接的なコネクションを持ち、 潜在的により多くの組織ユニットの意思決定に、より多く関与していることを意味していることになります。従って、事業部マネジャーは、人任せにしないより多くのコントロールを行使するCEOの、より直接的な統治を受けて、その意思決定を押し上げていることになります。ー集権化の形を示しています。

参考文献

  1. Julie Wulf, "The Flattened Firm Not as Advertised", California Management Review, Vol. 55, No. 1, Fall 2012, pp. 5-23
  2. ロバート・サイモンズ(著)、伊藤邦雄(監訳)「戦略評価の経営学」(2003)ダイヤモンド社
  3. 沼上 幹(著)「組織デザイン」(2004)日経文庫

マネジメントダイバー 第05回(その1) 2013.10.14