本文へスキップ

株式会社ビジネスサイエンティアは、人財育成・コスト管理強化型 WBS構築・プロジェクトマネジメントDX・製造業DXを専門とするコンサルティング会社です。

Business Scientific Engineering


株式会社 ビジネスサイエンティア

マネジメント ダイバーMANAGEMENT DIVER



【第08回】オンラインコミュニティによるブランド構築、共創とその成果
ーその1 「共創の出現とその定義に向けて」

新たな市場を築き成長させたい志を持ち、革新的になろうと努力している組織は、顧客からそのニーズや欲求の知識を徹底的に得ることから始めなければなりません。しかし、伝統的な組織構造とそのメソッドには、 組織と顧客とのふれあいと学習の機会を阻害する傾向があります。このギャップを埋める一つの方法は、共創を介することです。

このプロセスでは、消費者、マネジャー、および従業員が共同でブランド構築に参加し、新たな製品やサービスを創造します。イベントやオンラインコミュニティなどのような共創活動を通して、組織は消費者とふれあい、情緒、感情、そして記憶を彼らと一緒になって探りながら、深いインサイト*1(insights)形成することができます。

Nicholas Ind、Oriol Iglesias、Majken Schultz1の研究では、共創の参加がどうのように出現し発展するのかを探るために、デザイン思考のワークショップに似た手法でブランド構築をする、仮想オンラインコミュニティを立ち上げ、共創の成果として、コミュニティ内で形成されるブランド・インティマシー*2(brand intimacy)と創造性(Creativity)に注目しました。

オンラインコミュニティをどう育成発展させていくかについては、わが国でも、まさに今、企業のネット戦略上のホットな課題となっています。本研究で得られた興味深い知見が、リレーションシップ構築の一助として役立てて頂ければうれしいです。いつもより詳しくご紹介します。


Nicholas Ind is an Associate Professor at Oslo School of Management.
Oriol Iglesias is an Assistant Professor at ESADE Universitat Ramon Llull and Academic Director of the ESADE Brand Institute.
Majken Schultz is a Professor at Copenhagen Business School.

*1 インサイト(insight)
本来は「消費者インサイト」という言葉。直訳すると「洞察」だが、わかりやすく言えば、消費者の「ホンネ」である。行動や態度の奥底にある、本当の気持ちのこと。
(桶谷 功2「インサイト」より)

*2 ブランド・インティマシー(brand intimacy)
ブランドへの親しみ
(詳細は、本稿「その2ー研究結果」参照)

研究結果の概要

コミュニティの参加者は、参加者同士間、組織と参加者間に信頼(trust)とコミットメント(commitment)*3を築き始め、ブランドに、より親しみを感じ始めることを示しました。彼らは充実感を見い出し、共有の意義を感じ出します、コミュニティは相互交流するための重要な舞台になります。 結果として、人々は進んで質問に答え、重要な情報を提供し、ディスカッションに参加しながらクリエイティビティを提供し、新しいアイデアを形成します。

参加者は自らを組織のアウトサイダーではなく、インサイダーとして自分自身を見始めますが、多くのことを提供するので、より多くのことが返ってくることを期待するようになります。組織は、コミュニティが進化するにつれて、参加者の発言に耳を傾け、対応することが期待されます。参加者は、自分たちのアイデアと貢献が真剣に受け止めてもらうことを望み、コミュニティが終了しプロジェクトが完了した後も、その後の状況を知りたいと願います。

従って、マネジャーは、活動的な参加者となるポテンシャルを持っている人々を採用し、信頼し合えるオンライン環境を作り出し、クリエイティビティを表現する機会とアイデアを共有することを促すことによって、彼らの関与を注意深く育てることに時間を費やす必要があります。 また消費者の期待に応えるために、コミュニティで開発されたアイデアについて継続的なフィードバックを提供する必要があります。

このことは、組織が消費者と一緒になって効果的に仕事を共有することができる、マネジャーの参加型リーダーシップ・スタイルを必要とすることを示唆しています。同時にこの視点は、マネジャーは、コミュニティ参加者を、ブランドに不可欠なもの(より革新的な製品やサービスを開発することを支援することができる、多様性とクリエイティビティの豊富なソース)として、見るべきであることを意味しています。

*3 コミットメント(commitment)
リレーションシップを継続したいという願望と、そのために努力するという意志のことであり、暗黙的な場合もあれば明示的な場合もある。

(西尾チヅル3の「マーケティングの基礎と潮流」より)


共創の出現

共創とは、文学論、組織開発論、およびソフトウェア設計論において、興味深い素性を持っていますが、共創の現代的な考え方は、次の3つの背景から派生しています。

まず、1990年代以降のデジタル通信の出現と広い採用は、ネットワークやコミュニティにおいて、個人間の相互接続(connect)を可能になり、"社会的、認知的ポテンシャルが相互に開発され、向上させることができるようになりました"。このオンラインの相互接続性のおかげで、ユーザは興味のあるコミュニティを構築し、製品をカスタマイズし、自分の考えを共有することができるようになりました。

第二に、組織は、顧客が近くなり、自らが顧客満足体験*4(customer experience)の一部になることで、彼らの行動をよりよく理解することができることを認識しました。共創的な組織は、洞察能力を高め、リスクを低減し、関連する技術革新の開発を通じて、ステークホルダーとの価値を創造することから利益を得ることができます。

第三に、マーケティングの思考の中で無形財(サービス)の交換がますます強調され、使用するための購入行動からフォーカスが変化してきています。提供する人と消費する人との相互接続に基づく、この新しい顧客志向と関係モデルでは、組織が逆にブランドを介して顧客に入り込むことができます。

*4 顧客満足体験(customer experience)
顧客が商品の購入前の問い合わせ、発注、配送、サポートなどにおいて満足を体験すること。

共創の定義に向けて

有名なPrahalad とRamaswamy4のアプローチは、取り込まれる消費者の興味とコンピテンシー(competencies)を深め、イノベーションの形成を支援するための組織的な便益を強調していました。 本研究でもこの視点を基礎としますが、追加的に、ステークホルダーと彼らの充実感を見い出し、相互交流したいという願望を強調するために、分析の焦点をコミュニティ自体に変更しています。

コミュニティ自体に焦点をあてることで、次の2点についてより詳しくみることができます。
まず、共創が一つのプラクティスとして持続可能であるためには、内発的動機づけ*5(Intrinsic motivation)られている人々と共にエンゲージ*6する必要があります。内発的動機づけは、クリエイティビティの重要なコンポーネントであり、共創プロジェクトではハイレベルで長期的な関心を推進します。

第二に、コミュニティ参加者の間で構築されるリレーションシップは、参加者間や参加者と組織間の両方でコミットメントと信頼が必要です。他者からの信頼は人々のアイデアを共有する意欲を決定します。

また、ここでは共創の実用的な定義を、組織と参加者(全員に便益を形成しステークホルダーに価値をつくる)間のコラボレーションに基づく、"活動的でクリエイティブな社会的プロセス”とします。

*5 内発的動機づけ(Intrinsic motivation)
「内発的動機づけ」とは、「内発的自己目的的な行動の生起・維持過程」であり、熟達志向性と自律性という2つの性質を合わせ持つのに対し、「外発的動機づけ」とは、「状況的自己目的的な行動の生起・維持過程」であり、熟達志向性や自律性の程度が低いと定義される。

内発的に動機づけられる消費者は、自身の選好順位が明確、すなはち「製品判断力」が高いことが想定される。そのため、「みりんならばタカラ」といったように、指名購買を行う可能性が高くなる。これに対して、外発的に動機づけられる消費者は「製品判断力」が低く、自身の選好順位が不明確かつ不安定である。そのため、「みりんならば何でもよい」といったように、店頭における状況に影響される形で非指名購買が行われる可能性が高くなる。

(和田充夫ら5「マーケティング・リボリューション」より)

*6 エンゲージメント(engagement)
ブランドへの時間やエネルギの積極的投入

(青木幸弘ら6「ブランド構築の基本的枠組み」リレーションシップ より)



参考文献

  1. Nicholas Ind, Oriol Iglesias, Majken Schultz, "Building Brands Together: Emergence and Outcomes of Co-Creation", California Management Review, Vol. 55, No. 3, Spring 2013, pp. 5-26
  2. 桶谷 功(著)「インサイト」(2005)ダイヤモンド社
  3. 西尾チヅル(編著)竹内淑恵、野村千佳子、木村純子、芳賀麻誉美、白井美由里、清水聡子、戸谷圭子、井上淳子「マーケティングの基礎と潮流」(2007)八千代出版
  4. C. K. Prahalad and V. Ramaswamy(著)有賀裕子(訳)一條和生(解説) 「コ・イノベーション経営 価値共創の未来に向けて(The Future of Competition: Co-Creating Unique Value with Customers (Boston, MA :Harvard Business School Press, 2004)」(2013)東洋経済新聞社
  5. 和田充夫・新倉貴士(編)懸田豊、恩蔵直人、三浦俊彦、松下光司、久米勉、土橋治子、田嶋規雄、碇朋子、渋谷覚、諏訪晴美、駒田純久「マーケティング・リボリューション」(2004)有斐閣
  6. 青木幸弘(編著)徳山美津江、四元正弘、井上淳子、菅野佐織、宮澤薫(著)「価値共創時代のブランド戦略」(2011)ミネルヴァ書房
    ブランド論の変遷からはじまり、価値と関係性という2つのキーワードを主軸に最新の研究成果まで、本書一冊で一通り学べるようになっているブランド論の良書です。内容的にはまだ新鮮で改訂は不要と思います。ぜひ、このままのかたちで重版をお願いします。
  7. 和田充夫、恩蔵直人、三浦俊彦(著)「マーケティング戦略(第4版)」(2012)有斐閣アルマ
  8. 西川英彦、金雲縞、水越康介「ネット・コミュニティにおけるアバター効果の考察:日韓アバターサイトの事例分析」Vol.4 立命館ビジネスジャーナル(2010年1月)http://www.ritsbagakkai.jp/pdf/b004_02.pdf
  9. 藤本隆宏、高橋伸夫、新宅純二郎、阿部誠、粕谷誠(著)「リサーチマインド 経営学研究法」(2005)有斐閣アルマ
  10. Ronald A. Finke, Thomas B. Ward and Steven M. Smith(著)小橋康章(訳)「創造的認知ー実験で探るクリエイティブな発想のメカニズムー(CREATIVE COGNITION Theory, Research and Applications (1992)」(1999)産業図書
  11. 白根英昭「エスノグラフィック・マーケティング(Ethnographic Marketing)」マーケティングこそすべて」(Harvard Business Review)(2010, October)ダイヤモンド社
  12. Scott Cook「インテュイット 無償の貢献を引き出すビジネスモデル(The Contribution Revolution Letting Volunteers Build Your Business)」:DIAMONDハーバードビジネスレビュー「優位の教訓」(Harvard Business Review)(2008, December)ダイヤモンド社
  13. 西田豊明、角康之、松村真宏(共著)人工知能学会(編集)「社会知デザイン」(2009)オーム社

マネジメントダイバー 第08回(その1) 2014.06.04